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振り返ると同時に、僕は亮介の洋服ごと一緒に引き出しから引っ張り出した。
互いに差し出した秘密の宝物。
相手のソレを確認し、互いに絶句した。
絶句し、亮介は驚いたように僕を見る。
そして僕も……亮介の差し出したソレに涙が込み上げて来たんだ。
「…………カ……ギ」
亮介の掌にあったのは、見覚えのある部屋の鍵――。
『もう……愛してくれないの……?』
フラッシュバックするように耳の奥にこだました亮介の声、泣き顔……。そしてあの重い玄関ドアの……冷たさ。
「あ……」
ぶわっと一気に涙が溢れ、僕は持っていた服を、小箱を落としそうになって……、けどそれを落とす前に亮介に腕を引かれ、強く抱きしめられた。
「……っなにが、何が恥ずかしいんだよ……! ふざけんなよ、このツンデレバカ!」
洋服ごと僕を強く抱きしめるから、中の小箱が潰れないかと一瞬心配になったけど、もしも潰れたならそれもいい思い出になると思えた。潰れた分だけ、亮介が僕を強く抱きしめてくれたのだから。
「亮……介……!」
僕を抱きしめる亮介の右手にはあの部屋の鍵が固く握られ、その拳は僕の背中で少しだけ震えていた。
「んで……持ってんだよ……。捨てたんじゃねぇのかよ」
捨てられるわけない。……捨てられるわけないだろ……っ。
「も……」
持ってちゃ悪いかよと言いかけたけど、それをぐっと飲み込む。そんな可愛くないことを言うくらいなら、ずっとずっとして欲しかったことをお願いしよう。
服は三枚ある。けど、一枚は今の季節には薄すぎる。亮介の腕の中から離れ、僕は持っていた洋服と小箱をベッドへ下ろした。そしてセーターを広げ、亮介の胸にあてた。
「着てほしい。ずっと……これを亮介に着てほしかったんだ……もう一度」
このセーターは、僕の誕生日に着ていた服。甘えていいぞって恥ずかしそうに言う亮介の後を僕はずっとついて回った。たくさん抱きしめてもらった。この服を着た……亮介の腕の中に。
亮介は胸に広げて押し当てられたセーターを見つめ、そっとそれを手に取った。そして無言のまま服を脱ぎ、懐かしい思い出のセーターを着てくれた。
亮介は、このセーターを僕の誕生日に着ていたなんて覚えてないだろう。だけどそれでも僕には特別で、思い出深い大切なセーターなんだ。
「亮介……っ」
嬉しくて、飛びついた。
「亮介ッ」
嬉しくて、嬉しくて、懐かしくて……。あの頃のように、このセーターで僕を抱きしめてくれる亮介がすぐ隣に居てくれること、やっぱり奇跡で、やっぱり幸せで、やっぱり嬉しい。一人でこのセーターを抱きしめて泣いていた時間があったからこそ、この腕の中に居られることが何よりもかけがえのないものだと再確認出来る。
「愛してる……愛してるよ、亮介。もっと……抱きしめて……!」
息もできないくらい、潰れるくらいに抱きしめてほしい。愛してる。もう言葉に出来ないくらい、好きで好きで仕方ないんだ。
「……っ、比呂人」
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