フロム・スクラッチ~道に引いたこの線から~

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

フロム・スクラッチ~道に引いたこの線から~

 こそこそ……。  卒業式を終えて、ずっと憧れていた若い男性教師になんとかして告白しようと、陽菜(ひな)は先生が一人になる隙を物陰から見計らっていた。  後を付けて行くと、先生が一人で裏庭へ行くではないか! (チャーンス!! 緊張するけど、勇気を出して告白するのよ!!  なにせ、親友の由紀(ゆき)ちゃんにも内緒で先生をつけてきたんだから)  声をかけよと先生に近づくと、その更に向こうに親友の由紀の姿が見えた。  由紀も、陽菜を出し抜こうと先生を裏庭に呼び出していたのだ。 「あーっ!! 由紀ちゃんずるいーっ!!」 「陽菜ちゃん……!? なんで、ここにいるのよ!」  親友の二人は、お互い先生が好きなことを知っていた。  しかし、そこは認め合っている恋のライバル。  卒業式の告白のプランまで、手の内は明かしたりしなかったのだ。  おかげで、とんだニアミス。  奇遇な偶然。  二人は結局はちあわせをしてしまった。  いいわ、こうなったらダブル告白よ! 『先生、好きです! どちらか選んで下さい!!』  声を合わせて叫び、手を差し出した。  二人の女生徒の姿を見て、若い男性教師は笑いを堪えるのが精一杯だった。  恋に恋いこがれる、かわいい生徒を傷つけないためにもここで声を出して笑うわけにはいかなかったのだ。  そして、夕日で赤くなった空を見上げながら先生は照れたように頬を掻き、口をひらいた。 「……二人の気持はうれしいけど。先生、春には結婚するんだ」 『えっーっ!!』  重大事実に、二人の少女は目を大きく見開いて大声を上げた。 「だから、気持ちだけ受け取るよ。二人とも高校でがんばれよ。先生、応援してるから」  そう言うと先生は、二人を残し素早く去っていった。  ★ 「うっ、完敗だったわね」 「二人とも玉砕なんてカッコ悪すぎ~」  びえーんと由紀が泣き出す。 「泣くな、あゆ……」 「陽菜ちゃ~ん!」  由紀に抱きつかれて陽菜は、 「私も泣きたくなるじゃないの~」  と、一緒に泣き出してしまった。  うわぁぁ~ん。  涙が枯れるまで二人は肩抱き合って泣いた。  ★  夕暮れ時のサイクリングロード。  時折り、犬の散歩をしている人が通るくらいで他には誰も二人の邪魔はしなかった。  そこで、コンビニで500mlの100%オレンジジュースとやはり500mlのレモンティーを買ってきた二人はガブガブ飲んだ。  泣いた後には水分補給をしなければ、元気になれない。 「げぷ……飲んだ飲んだ!!」 「取りあえず、涙のぶんは補ったね」 「これから、どうする?」 「うーん、まずは高校に行っていい男探しでしょう」 「だよね~」  陽菜は、ポケットから小さな巾着袋(きんちゃくぶくろ)を取り出した。 「なにそれ?」 「お守りだったけど、もういらないから……」  中身を出すと、それは小さな白いチョークだった。 「?」 「先生が使ってて、折れちゃったチョーク……」  陽菜は、恋のお守りとして大事にその折れたチョークを持っていたのだ。 (ちなみに、由紀は先生が購買部で100円でかったシャープペンをGETしていた)  陽菜は、そのチョークでアスファルトの道に一本真っ直ぐな横線を描いた。  そして、つめの先よりも小さくなってしまったチョークを、赤く染まった空へ向かって投げ捨てた。  後に残ったのは、二人の足元の白線だけだ。  それをじっと見つめる二人。  由紀が口を開く。 「ゴールライン……?」 「そ、この恋の最終地点。そして新しい恋のスタート地点」 「スタートライン!!」 「オッケー。走り抜けるよ~。よーい、ドン!!」  二人は、一緒にラインを切り走りだす。  長く続くサイクリングロードをどこまでも……。  ★ 「ところで、思い出したんだけど……」 「なによ~」  家路を急ぎ、息切れしてきた二人。 「私たちの高校、女子校だよ!」 「げげげ!! そうだった~」  二人はこける足並みもピッタリだった。  ★END★
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!