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ーー爽人翠。
お前はずっと、戦っていたんだな。
「解放してやってくれ。こいつを」
強い瞳で女を見据える。
ミントの震える指先を、桜太郎の右手が優しく包んだ。
周囲の買い物客もただならぬ気配を感じ取ったらしい。
いつの間にか、ミントたちは注目を集めていた。
女は舌打ちをしてから、憎々しげにこちらを睨みつけた。
「悪者扱いしてんじゃないわよ。
ああ、もういい! 勝手にして!」
そう吐き捨てて、踵を返す。
女の後ろ姿を見つめながら、ミントはすっと息を吐いた。
ーー爽人翠。自分を責めるなよ。
目を瞑る。瞼に力を込めた。
涙がすっと引いていくのがわかった。
重くのしかかっていた悲しみの感情が、少しだけ浄化されたような。
ーー俺が、お前の分も生きるから。だから……。
願わくば爽人翠の魂が、安らかであるように。
指先で感じる桜太郎の体温が暖かくて、ミントは妙に安心するのだった。
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