第八回路

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第八回路

ピロン♪ その着信音がするのを私はじっと待っていた。 どこかで見つけてきた少しバランスの悪い椅子に座りながら、PCとにらめっこをする。 ウィーン……とパソコンが徐々に熱くなっていく。 私が「います」と返事をしてから一週間。 あの日メールを送ったとたんに私の情報量は一気に増えた。 メールの返事はこうだ。 「こんにちは!まさか生きている方がいるとは思いませんでした!!」 それから私は画面の向こうの相手「誠人(まこと)」と話すようになった。 誠人は私に様々なことを教えてくれた。 「そう……黒い髪の毛の女の子です。その子が沢山の人を殺していった」 この酷い有様はその女の子のせいらしい。 「その子は笑いも泣きも楽しみもせず人を殺めていった。自分の足で歩いて目についた人をどんどん殺していく。」 背筋(もしくは背筋という役割を果たしている骨組み)が凍りつくかと思った。 私はすぐに手を動かす。 「それで……この有様なんですか」 数秒後、返事は返ってくる。 「はい」 誠人の話が正しければその女の子はまだこの世界で生きている、のだ。 「誠人はその子から逃げ切れたんですね」 ゆっくりとキーボードを打つ。 きっかり一分後だ。きっと文面に悩んだのだろう。 誠人にしては返事が遅かった。 「逃げた、まぁそれは嘘ではないでしょう。こうしてあなたと会話ができているわけですし」 そんなわけで私は誠人から情報を得ていた。 私は誠人からの返事をまちながら腕のカバーを外す。 『初めての工作 簡単!ロボット004 オイル』 明らかに子供向けのパッケージのオイルをさす。 カバーを閉めた。 ここは不良品回収センターなのでたくさんのメンテナンス商品が並んでいる。 よって私が動かなくなったことはまだない。 床には私が使い捨てたオイルの容器が散漫していた。 まだ空ではないので気がついたとき、足元に落ちているオイルを差している、 所詮は小学校で作られたロボット。 メンテナンスなどオイルだけで十分なのだ。 ピロン♪ (来た……!) 私はオイルの容器を蓋もせずそのまま投げ捨てた。 そしてPCに駆け寄る。 「そういえばあなたのお名前をお聞きしていませんでした」 誠人の返事が遅かったのはそういう理由か。 生きているということがわかっているのが二人だけ(厳密に言えば私は生きてはいないが)、とはいえ名前は個人情報。 きっと聞いていいものか迷ったことだろう。 すぐに「k」を押す。 「九十九ちゃん、私の名前は九十九ちゃん」 青い手紙マークを押し終わった。 あれ、私は九十九ちゃんなはずだ。 どうしてこんなに違和感をおぼえるのだろう。 不良品No,4、違うそんなのは名前ではない。 頭の回路がどこか狂ったのだろうか。誰かの記憶が混在している気がした。 『化け物』『お人好し』 私が今まで聞いたことのない呼び名。 そして、鮮明に映像として浮かび上がってきたものがあった。 少し老け顔色の悪い女性。フライパンで何かを炒めている。 私の方を見た。彼女は色の悪い顔を必死に笑顔に変える。 『詩織』 違う…そんなのは私の名前なはずじゃない。 なのになぜかしっくり来た。 あぁ……心の何処かが叫んでいる。 「私は…花岡詩織」 だと。 続く
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