第五回路

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第五回路

クラ……イ…。 「九十九ちゃん…!眠ったらダメよ!起きなきゃ」 だレ…。頭の中でコエする…。 目、アケタハズ。ナニも見えナイ。 「九十九ちゃんっ!」 起きて。 目が覚めるとそこはあのダンボールハウスだった。 私は目(もしくは目というもののかわりになっている機械)を擦った。 まだ少し目を開けるきにはなれなかったのでそのまま瞑っておくことにした。 耳には鮮明に蝉の鳴き声がこだまする。 「センメイ」…?私はいつそんな言葉を覚えたのだろう。 考えてみると私はこんなに誤字が堪能だっただろうか。 いつ…どこで覚えたんだろう。 私は何処か他に変わっていないところがないかと声(もしくは機械音声)を響かせることにした。 「あ…」 この前よりも人間に近い音声になっていた。 「じょうちゃん…。スイッチを切ったらダメだぞ」 あのおじさんだ。耳(もしくはマイク)の性能が上がったのか。この前よりずっと特徴のある声に聞こえた。 「じょうちゃん…。スイッチを切ったらダメだぞ」 えっ…?どうして同じ内容を繰り返すのだろう。 私はゆっくりと目を開いた。 眼の前にあったのは録音スピーカーだ。 そこからおじさんの声が流れていた。 「じょうちゃん…。スイッチを切ったら……」 私はあまりにも同じ言葉を繰り返すのでそのスピーカーに手を伸ばす。 少し遠かったので体がダンボールハウスからはみ出た。 手がスピーカーの上に乗った。精一杯握りしめた。 バリ……ガラガラガラ…。 スピーカーは粉々になり音声も流れなくなった。 私は満足するとそのまま手をスピーカーから離した…。 「っ……!?」 今、私は何をした…?スピーカーを壊してしまったのか。 なぜそんなことを……。 無意識のうちに立った。 ダンボールハウスは私が覚えているよりも遥かにボロボロで、すぐに表面から裂けてしまった。 私は足を前へ進める。 スピーカーを壊してしまったことをあのおじさんに謝らなくては。 だが、数歩進めたところで足は止まった。 足の裏になにかネッチョリとした液体を踏んでしまったようだ。 私は右足を上げる。 赤色の液体はポタ…ポタ…と垂れたあと私の足にこびりついた。 と、この液体は何処からか流れてきているようだ。 私は前を向く…。 その液体が流れていたのはあの「おじさん」からだった。 おじさんは身体中に穴が空き、倒れていた。 充電が切れたのだろうか。それともショートしたのか。 いや……違う。この人は 「人間だ…。」 私はいつの間にか覚えていた知識の中である情報を取り出した。 『死』 そして 『腐敗』。 ただ、その事実だけが私の胸に残っていた。 『悲しい』なんて感情は見当たらなかった。
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