第六回路

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第六回路

私はおじさんの「死体」をつつく。 どうして人間はこんなにも不便なのだろうか。少しなにかしただけで壊れてしまう。 しばらくつついていたが興味がなくなって立ち上がった。 あたりを見渡し足(もしくは足という役割をしている機械)を動かす。 「ジジジ……」 アブラゼミが不良品回収センターの柱に止まる。 と、気づいた。 私の服はぼろぼろになっている。それだけではない、不良品回収センターもまるでここで爆発があったかのようにボロボロ。 元々機械のゴミ捨て場のような場所で、オイルとサビの匂いが散漫していたがこれほど酷くはなかった。 ぼろぼろの入り口から外へ出る。 「っ……?」 思わず息(私は息をしているのだろうか)を飲んだ。 あちらこちらに散らばるなにかの肉片。 おじさんから出ていた液体と同じものが水たまりのように溜まっていた。 そして静かだった。 セミの鳴き声と時々垂れる液体の音だけが響いている。 ピチャ… 歩く度に必ず肉片を踏む。 それはぐちゃぐちゃであったりまだなにかの形をしていたり。 時々顔のようなものも見つかり踏んでしまったときはとても硬かった。 「ミーンミーン……」 ミンミンゼミがどこかで鳴いている。 ポタポタ……となにかが垂れている。 私が知らなかっただけでこれが「普通」なのだろうか。 思えば学校からトラックで運ばれ不良品回収センターへきた。 外の様子は何一つ知らないはずなのだ。 だが私の中にいつの間にか蓄積されていた情報が「これは普通じゃない」と告げていた。 足を止めた。 体を捻って見渡してみる。 『無』 その言葉がどこかの回路を通って電気信号として私に伝えていた。 そして電気信号がもう一つ。 『誰か生きている方はいらっしゃいませんか』 「え……?」 上下左右首を振ってみるが生きている人間はいないはずだ。 『誰か……』 また電気信号が伝わってくる。 前へ歩いてみた。 歩く度に信号ははっきりと伝わってきた。 その正体を発見する。 『パーソナルコンピュータ』だ。 誰かがここで作業をしていたのだろう。机の上にコーヒーとともに置いてあった。 ピロン♪ 着信音のようなものがなってメッセージが届いた。 『誰かいませんか』 電気信号とパーソナルコンピュータ(通称PCというらしい)から伝わる。 PCの画面に「誰かいませんか」の文字が表示された。 私はキーボードに手を置きそのメッセージに返信することにした。 「います」 と。 続く
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