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家に帰ると父の転勤が突然決まり、引っ越すことになっていました。
その後つづら姉さんの家に行くことは二度とありませんでした。わたしはその引っ越しが魔法陣の効果だと信じて止みませんでした。
ですが、後になって考えれば、おかしなことがたくさんあります。
つづら姉さんが魔法陣を描いたとするなら、見せようとした相手はわたししかおりません。悪い意味の魔法陣を見せ、約束を破ったわたしを近寄らせないようにしたかったのでしょう。
魔法陣のことを教えたのは、つづら姉さんから左の道のことを忠告されたよりもずっと後のことでした。
あの道が残っていたことも疑問です。草が生い茂る中、誰も通っていないはずのあの道が残っていたのはなぜでしょうか。
後の話ですが、猟友会に入っている親戚と会った際に、こんなことを聞きました。害獣を駆除して埋葬するとき、殺菌や腐臭を抑えるために周囲の土や穴の上に消石灰を撒くことがあるそうです。
石灰。
畑の肥料には、消石灰を使ったものがあるそうです。ですが、わたしが魔法陣のことを得意げに話したころに、もうその袋は空になっていました。
わたしの想像でしかありませんが、肥料袋の中にある石灰は、周囲の土に混ぜ込んだところで無くなってしまったのでしょう。
では、足りない分……魔法陣を描いた分はどうしたのでしょうか。
足の悪いつづら姉さんが一人で重い肥料を買いに行くのは難しいでしょう。かといって、庭いじりもしない彼女が買い物を頼むなら、実際に買い物をする両親が疑問に思うはずです。
都合良く、石灰を手に入れる方法などあるのでしょうか。
わたしは、もう二度と会うことはないかもしれないつづら姉さんの顔を思い浮かべながら、リビングに置いてあったせんべいに手を伸ばします。
そのせんべい袋の中には、石灰が主成分の乾燥剤が入っていました。
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