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男の子はくるっと振り向き、私たちに言った。
「お兄さん、お姉さん。今のは見なかったことにしてくれませんか」
「お前、子供のくせにクズの匂いがプンプンするな。このままじゃろくな大人にならないぞ!」
椎名くんには言われたくない。
「帽子の子にちゃんと謝った方がいいんじゃない?」
「でも僕、今から塾なんです。ママが私立の小学校にお受験させると言って聞かないんです」
「親のせいにしやがって。いったい、どういう教育受けてんだ」
お前も親の教育のせいにしてるぞ、椎名くん。
それにしても困ったことになったな。
どうしようか。
「こうなったら、俺たちで蝶をもう一度捕まえるしかないな」
「マジで?」
驚いて二度見したけど、椎名くんの目はマジだった。
「帽子の子が戻ってきた時、蝶がいなくなっていると気づいてガッカリして泣いちゃったら可哀想だ。もしもの時のために、代わりにこれを置いておこう」
椎名くんは自分のカバンの中からソフトビニール製のう○この人形(?)を取り出して帽子の下に入れた。
「もっと泣く!」
捕まえた蝶がうん○になってるなんて、絶対やだ。
「今はこんなもんしかないんだ」
「逆に何でこんなもんがあるんだ」
「そこはどうでもいいだろ。それより早く蝶を捕まえてこないと!」
モンシロチョウは私たちを嘲笑うかのようにまだ道の上をひらひらと飛び続けていた。
「追いかけるぞ、藤川!」
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