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もう椎名くんには頼らない。
私は一人で蝶を捕まえる決意をした。
小さな男の子でさえ帽子で捕まえられたくらいのマヌケな蝶だ。私にだって捕まえられるはず。
追っていくと、蝶は秋月団地という二棟並んだ団地の敷地に入っていった。
団地同士の間には、住民の憩いの場なのかちょっとした公園があり、それを囲う花壇には花がいっぱい咲いていた。蝶はその場所に惹きつけられていたようだ。
そこには、桜、たんぽぽ、ひまわり、チューリップくらいしか知らない私が珍しく名前を知っていたマリーゴールドも咲いている。
白い蝶はそのみかん色した花びらの上を低空飛行で飛んでいる。
ここだけ見ていると春みたい。
でも、空を見上げるとまとまった雲が太陽のあかりを遮りながら接近していた。
もしかして、夕立が来ちゃうかも。
なおさら椎名くんは待ってられない。
私は辺りを見回して、蝶を一旦閉じ込めておける容器のようなものはないか探した。
でも目に見える範囲にいたのは白い猫を抱っこしたマダムくらい。彼女の首元には日焼け防止のためなのか、薄いストールが巻かれていた。
ストールか。広げればもしかしたら、ネットのようになるかもしれない。通気性も良さそうだし、少しの時間なら包んでも蝶を殺さないはずだ。
私は思い切って猫のマダムに近づき、声をかけてみた。
「あの……すみません」
「なあに?」
振り向いたそのマダムを見て、私は一瞬ドキッとした。
ちょっとヒゲが生えている。もしかして、男の人?
「どうしたのよお嬢ちゃん、困ったことでもあるの? あらあ、可愛いわねっ! 私に何でも話してごらんなさいっ」
何故かチーママという単語が頭に浮かんだ。
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