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その時、私のスマホが鳴った。
『もしもし、藤川か?』
「椎名くん……」
相手はやっぱり椎名くんだった。
『今どこ? さっき沢田からちょうど運良く網と虫カゴ借りられたんだ。遅くなってごめん、すぐそっち行くから待ってろよ』
「……ごめん。秋月団地っていう所なんだけど……蝶、見失っちゃった」
『えーっ。そっか……』
は? 何やってんだよ藤川!
って、怒られるのを覚悟してたのに、椎名くんはそれ以上言わなかった。
椎名くん、ガッカリしちゃっただろうな。
しょんぼりと俯いた私の首筋に、ポツリと雨が降ってきた。
夕立か。まさに踏んだり蹴ったり。
「ごめん、雨降ってきちゃった! スマホ濡れちゃうから電話切るね」
『あっ、藤川!』
椎名くんが何か言いかけたけど、私のスマホは古い機種だから防水機能が怪しい。もしどこかに水が入って壊れたりしたら嫌だ。
あーあ。
何だか、自分にガッカリ。
雨宿りする気力も失せて、そのままトボトボ歩いて帰ろうとした。
その時だった。
「もう、何やってんだよ藤川」
私の頭の上で雨音が弾かれる音がした。
誰かが背後から私にFFとプリントされた黒い傘を差しかけたのだ。
その声。
振り向く前から分かってた。
「椎名くん……?」
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