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「風邪ひいちゃうだろ。何のんきに歩いてんの?」
「えっ、椎名くんこそ……来るの早すぎじゃない?」
さっき電話終えたばかりなのに。
すると、椎名くんはふにゃっと笑って、傘を差していないもう一方の手を私の目の高さに上げた。
「これ、なーんだ?」
「あっ!」
椎名くんの手にぶら下げられていたのは虫かごだ。その中に、白い蝶。
「捕まえたの⁉︎ いつ⁉︎」
「藤川が公園の中を走り回ってた時。勘を頼りにこっちに来たら、こいつが目の前を飛んでたからサッと捕まえたんだ。で、藤川をびっくりさせようと思って、まだ着いてないフリして電話してたの」
さっきの電話はここからかけてたんだ。すっかり騙された。
「折りたたみ傘も持って来といて良かった。って、どうした藤川? 泣いてね?」
「いや、雨粒」
こんなことで泣くか、バカ。
そりゃあ確かに蝶を捕まえられてホッとしたけど。
椎名くんが私を追いかけて来てくれて、すごく嬉しかったけど。
すると椎名くんは優しく笑った。
「俺が蝶を見つけられたのは、藤川がここまでしっかり追いかけてくれたおかげだよ。だからそんなに悔しがるなって」
悔し泣きとか、してねーし。
そういうんじゃないってば。
っていうか、泣いてないし!
言い返したかったけど、椎名くんはもう前を向いていた。
「さあ、早く白い帽子の子に蝶を返してあげよう」
雨も降っているのに、まだ帽子はあるかな?
幸い、まだそんなに強い雨じゃないけど、椎名くんの言う通り急いだ方が良さそうだ。
相合傘だとか、もちろん意識している場合じゃない。
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