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こうして、大急ぎで元の場所に戻ってきた私たちは、驚きの光景を目にすることになった。
「泣かないで、沢田くん」
「うん……」
同じクラスの佐藤さんに慰められている、同じくクラスメイトの沢田くん。
彼の手には白い帽子と、ビニール製のう○この人形があった。
「あっ! それ、俺のうんこ!」
「誤解を招く言い方するなよ椎名くん」
椎名くんにツッコミを入れた後、私はすぐに佐藤さんに尋ねた。
「どうしたの、沢田くん」
「なんかね、沢田くんが蝶をこの帽子の下に捕まえていたらしいんだけど、しばらくして戻って来たらいつの間にか中身が入れ替わっちゃってたんだって」
蝶を捕まえていたのは沢田くんだったのか。
白い帽子が子供用だったから、持ち主も子供だと思ってた。
沢田くんは無表情でシクシク泣いている。
可哀想に。やっぱりう○こで泣いちゃったな。
「それで、蝶を改めて捕まえようとして網とカゴを持って走っていたら、突然現れた椎名くんに強奪されたって沢田くんは言ってたけど、本当?」
「あっ。そうだったのか。それで沢田はちょうど良く網とカゴを持ってたのか」
強奪するなよ、椎名くん。可哀想だな!
私が見ていなかったところでもいろんなドラマが動いていたらしい。
「安心しろ、沢田。お前の蝶は俺がしっかり捕まえて来てやったぞ!」
誇らしそうに虫カゴを見せる椎名くん。沢田くんの目がみるみる輝いていく。
これで一件落着だね。めでたしめでたし。
と思ったら。
「あっ」
雨で手が滑ったのか、椎名くんと沢田くんの間に虫カゴがガシャン! と落ちた。フタが外れ、蝶ははるかな空へとヒラヒラ飛び立っていく。
その何とも言えない切ない光景を、私たち四人は無言で見つめていた。
私の苦労は何だったんだろう。
とりあえず、雨上がりに虹でも見られたらいいなと思った。
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