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告白されて
「緒都が好きなんだ」
俺の左手の甲を、倫太朗さんの右手が覆った。
涙がボロボロと流れる。
何を言ってるの? 倫太朗さん。
「初めてね、緒都を見た時から気になってたんだ」
初めて?… 。
「… 俺、男しか好きになれなくてさ…… 引く?」
同性愛者だと、倫太朗さんは言った。
淋しそうな、悲しそうな笑みをほんの少し浮かべて、倫太朗さんが言った。
椅子に座ったままの俺は、歪んだ顔で涙が止まらないまま、覆われた左手で倫太朗さんの右手の親指をギュッと握り返す。
嬉しい、こんなに嬉しい気持ちになったのは初めてだ。
それでもすぐに現実に戻される。
大紀から逃れる事なんて、出来る訳がなかった。
握り返した左手の力が抜けて、自分の方へ引き戻すと、悲しそうな倫太朗さんの顔。
胸がズキンッと酷く痛んだ。
「言わないでおこうと思ってたんだけどね、緒都に会いたくて、毎週金曜日が楽しみだった」
緒都、と倫太朗さんに呼ばれてトクトクトクと胸が騒ぐ。
大紀に呼ばれている「緒都」とは違う名前に聞こえる程だ。
「最初に緒都を見た時は、俺の所には寄らないで、そのまま帰って行ったんだ」
そう、なの? 知らなかった。
気がついたらおにぎり屋さんがあって、倫太朗さんに目を奪われたんだ。
その前から俺を見ていたの?
「綺麗な子だなぁ〜って、姿が見えなくなるまで目で追ってた。だから、おにぎりを買いに来てくれた時はもうっ、嬉しくて飛び上がりそうなのを必死に我慢した」
恥ずかしそうに、倫太朗さんが笑って頭を掻いている。
「……… 引く?」
掻いている手をそのまま止めて、不安気に俺を見つめる顔はカッコいいより可愛い。
引かない、俺だって倫太朗さんが好きなんだ、引く訳がないけれど、浮かぶのは大紀の事。
だから…
目を閉じ、胸を押さえ大きく深呼吸をして、パッと倫太朗さんを見た。
「き… 気持ちは… 嬉しい、です… でも、えっと、あの… 」
好きです、と俺だって言えれば良かった。
でも言えなかった、大紀との事を知られたら途端に嫌悪されるに決まっている。だったら、このままがいい、倫太朗さんに好きだと思われているままがいい。
「びっくりするよね、急にこんな告白されても… えっと、さ… 今のは関係無しに、仕事の片付けを手伝ってくれないかな?」
「……… 」
「無しにって言われたって、そんな訳にはいかないか… 」
参ったな、と片付けをまた始めて「おにぎり、食べちゃって!」と作り笑いが引き攣っている。
言われた通りにおにぎりを食べながら、倫太朗さんが片付ける様子を見ていた。
手伝う時に、何をすればいいのか分かっておきたかったから。
ショーケースを丁寧に拭き上げ、アルコールで消毒、正札をまとめてトレイや編みかごなんかを大きな袋に仕舞っている。
折りたたんであった二段の台車を広げて番重を積み始めた頃には、おにぎりも食べ終えていたから立ち上がって番重を持った。
「… 緒都? 」
「… て、手伝います」
頬が赤くなってしまったから、そんなに見つめないで欲しいと思う。
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