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「緒都っ!!」
大紀に引き摺られる様に連れて行かれる俺に、大きな声で倫太朗さんに声を掛けられて、振り返ると何かを投げられ、反射的に両手で受け取った。
掌の中にあったのは、倫太朗さんの車の鍵。
倫太朗さんは小さく頷くと、大紀に掴み掛かって、その場で押し倒す。
その勢いで、掴まえていた大紀の手が俺から離れた。
倫太朗さんの車に逃げろと言う合図が分かって、俺も頷くと全速力で駐車場の倫太朗さんの車へと走った。
どうするんだろう、どうなるんだろう、怖くて仕方がない、倫太朗さんの車に逃げ込みロックを掛け、外から見えない様に、二列目のシートの下に小さく踞って身を震わせた。
どの位の時間が経ったのかは分からない、暫くするとコンコンと車の窓を叩く音に、恐怖で体がビクリと動いた。
怖くてそのままにしていると、もう一度コンコンと叩く音に、恐々顔を上げる。
酷く心配そうな顔の倫太朗さんが見えて、思わず涙が込み上げ、ロックを外した。
急いで車の中に入ってドアを閉める。
「緒都、緒都、大丈夫だから。もう、大丈夫だから… 」
踞っている俺の背中を優しく摩って、大きな倫太朗さんが二列目のシートに座った。
ボロボロと涙が流れる。
怖さなのか、真実を知られてしまった悲しさなのか分からない、酷く涙が込み上げて止まらない。
「緒都、大丈夫だ。もう怖がらなくていい」
そう言うと運転席に移り、車のエンジンをかけた。
「騒ぎになって警備員が何人か来たら、何事も無かったみたいにアイツ… お兄さん、病院から出て行った」
体裁を誰よりも気にする大紀らしい。
「アイツ」と呼んで悪いと思ったのか、「お兄さん」と言い直した倫太朗さんの優しさが痛い。
「車、出すよ」
倫太朗さんの声に、小さく「すみません」と言うと、
「緒都が謝る事は何もない」
そう言うと、サイドブレーキを外した。
暫く車を走らせると、倫太朗さんがシートに座る様に言う。
「その体勢、酔うよ。もう大丈夫だからシートに座りな」
車に揺らされながら何とかシートに座ってシートベルトを締めると、ルールミラーで目が合う。
優しく微笑む倫太朗さん。
隠していた事を知られて、身の置き場がなくて、深く俯いた。
「緒都、好きだよ」
倫太朗さんの言葉に応える事も出来ずに俯いたまま、俺はただ涙を流して車に揺られていた。
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