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「あっ! 」
目を覚まし、寝てしまった事に気付いた俺は慌てて起き上がると台所から優しい声。
「気持ち良さそうに寝てた、ずっと見ていたかったよ」
気持ち良さそうに… そんな風に眠れたんだ、まだ起きない頭でボーッと思う。
「家に連絡しなくて、大丈夫?」
心配そうに訊いてきたけど、下手に連絡を入れた方が危ないと思って「大丈夫」と答えた。
「あの… ご迷惑をお掛けして… すみません… 」
「そんな事、言わないでよ」
少し悲しそうな笑顔に胸が熱くなる。
あまりにも手持ち無沙汰で、台所の倫太朗さんの傍に寄ってみると何やら煮物を作っている。
「昆布の佃煮、まとめて作っておいておにぎりに使ってるんだ、緒都が好きな昆布」
にこっと笑って俺を見た。
食べてみて、と手のひらに少し乗せてくれて、それを口に入れる。
「美味しい」
「良かった」
美味しくて思わず頬が綻んだ俺に、倫太朗さんも顔を綻ばせた。
幸せで胸が躍る。
「俺のでいい?」
風呂に入る前にそう言って渡されたTシャツと短パンはぶかぶかで、倫太朗さんに笑われる。
下着はコンビニで買ってきてくれたみたいだった。
倫太朗さんがお風呂に入っている時に、気になっていたスマホの電源を入れると、大紀からの着信とメールが三桁を超えていて、思わず咄嗟にまた電源を落とした。
「どうした?」
電源を落とすと同時に倫太朗さんがお風呂から上がってきて、濡れた髪を拭きながら俺に訊く。
「… ううん、何でもない」
大紀の事を考えると恐ろしさでいっぱいになるのに、今のこの時間が温かくて幸せで、恥ずかしそうに俺は笑みをこぼした。
台所と繋がっている居間の隣りに四畳半の畳の部屋があり、そこに布団を敷いてくれた。
「ここで寝て」
笑顔でそう言うと、倫太朗さんは三階へ上がって行こうとする。
「え?」
「ん?」
傍にいてくれないのかと思って、心細くなった。
「…… 傍に… いて… 」
「うん、でも… 理性が保てるか自信ないんだよ」
ははっ!と俺を見ずに軽く笑い飛ばして誤魔化している。
「じゃ… じゃあ… 話し、聞いて貰えませんか… 」
倫太朗さんに大紀の事を話そうと思った。
傍にいて欲しいからじゃない、いつかはきちんと聞いて貰おうと思っていた。
「ああ、でも、いいんだよ、無理しないで… 」
俺の事を気遣って、無理に話さなくてもいいと言ってくれる。
俺が先に座卓の前に座ると、続いて倫太朗さんが正面にあぐらを掻いて座った。
それでもやっぱり、緊張はして正座になってしまったから、倫太朗さんより顔の位置が高くなって違和感。
心配そうに覗き込まれた目が優しくて、話し出すのを少し躊躇う。
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