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夜を共に
あぐらを掻いて座る、正面の倫太朗さんに話し始めた。
「え… と、俺… あの… 大紀… あ、大紀って、さっきの…… 兄、義理の兄、なんですけど…… 」
話し始めるとやっぱり辛いのと、反応が怖いのとで声が詰まったけど、勇気を振り絞って倫太朗さんに話した。
俺と大紀は、親が再婚した相手の子ども同士の義理の兄弟である事、中学三年生の時に大紀から性的暴行を受け、それから毎日の様に続く暴行に感覚が麻痺していった事、汚い自分を他人に見られている恐怖感から外に出られなくなった事、そんな俺を喜んで束縛して溺愛して執着されている今を、途切れ途切れになりながらも、何とか話した。
倫太朗さんは何も言わずに黙って、泣きそうな顔で聞いている。
「話してくれて、ありがとう」
優しく小さく笑った倫太朗さんの目には、薄っすらと涙が滲んでいた。
初めて誰かに大紀の事を話して、かなり心が軽くなった気がした。
「病院の先生には話したの?」
首を横に振った。
「… どうして?」
「別に… 話したところで何も変わらない、俺の恥部を晒すだけだし… 眠れなくてしんどかっただけだし… 睡眠導入剤を貰えればいいだけだったから… 」
「… そうか」
暫く沈黙が流れた。
何て声を掛ければいいのか分からない様な倫太朗さんだったけど、流れる沈黙は嫌なものでは無かった。
「あっ!薬… 持ってきてないんじゃない? … 大丈夫… ?」
ハッと気付いた様に倫太朗さんが俺に訊いた。
「一晩くらい、眠れなくても大丈夫。それにさっき昼寝しちゃったし… 」
「じゃあ、今夜は緒都が眠れるまで俺も付き合うかな」
そう言いながら立ち上がると、台所に向かいポットでお湯を沸かし始める。
胸がとくんとして少し背筋が伸びた。
「でも、明日もおにぎり屋さん… 」
倫太朗さんの近くに行きたいと思い、立ち上がって台所へと足を運んでしまう。
「明日は休む」
「え? … でも… 」
俺のせいだよね?
そう訊いたところで、「違う」と言うだろう事は想像がついたから訊かなかった。
「カモミールティー、飲む?」
古い食器棚から取り出したティーカップはお洒落で、そこだけ違う空気を纏っていた。
まるで、この古びた家に住む倫太朗さんみたいで愛おしく見える。
「寝る前に飲むと落ち着く」
にっこりと笑って俺を見た。
黙ったまま、背の高い倫太朗さんを見上げると、急に照れて笑い出す。
「やめてよ… そんな目で見ないでよ、これでも一生懸命堪えてるんだからさ… 」
堪えてる… ?
そんな… 倫太朗さんに抱かれてみたいと思って頬を赤らめてしまったけど、急に思い出す。
昼間に見られた身体中の赤い痕をまた見られてしまう、そんなのを目の前にしたら倫太朗さんは… 萎えてしまうよな。
肩を落として目を伏せた。
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