恋の始まり

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俺には自由はない、話すだけだって、やっぱり駄目なんだ。 「あ… すみません… 俺、帰ります」 飲みかけのペットボトルのお茶をバッグに入れて、立ち上がると腕を掴まれた。 「本当にごめん、気に障った?」 今度は俺の顔色を伺う様な、不安気な顔に心を掴まれる。 「あ、いえ… あの… 」 ゆっくりと、掴まれた腕を自分の方へ引こうとするけど、倫太朗さんの力が強い。 「…… 俺… 毎週かかってるの、心療内科なんです… 」 倫太朗さんの、俺の腕を掴んでいる力が少し弱くなったから、自分の方へ引き戻そうとした時、またも強く握り締められた。 「… だから?」 だから何? という顔で俺を見る。 「ひ… 人と、あまり関わりが持て… ないし… 」 「そう? 俺とこうして話してるじゃない」 「高校… 一年、の時に… 学校に行けなくなって… ずっと家に引きこもっていて… 」 「それからずっと病院に通ってるの?」 「… びょ… 病院は… 二年、前から… 眠れなくて… 薬を… 貰い、に… 」 「薬を飲めば眠れてるの?」 「… う、ん… 」 「じゃあ、良かった」 倫太朗さんの問いに、途切れ途切れながらも何故だか答えてしまう。 優しい瞳、優しい笑顔。 それでも、大紀の事は絶対に話せない。 軽蔑される。 汚い身体だと思った。 自分の身体は大紀に汚されている。 周りの目は俺の全部を知っていて、汚い身体だと皆んなが見ている、そう思うと外に出て行けなくなった。 周りの視線が怖くなった。 母親はパートに出ていて、帰って来るのは夕方で、それより早く学校から帰ってくる大紀から毎日の様に関係を持たれた。 「大丈夫だよ、緒都。緒都には僕がいるからね」 抱き終わると、愛おしそうに身体中を舐めて、何処にも行けない俺を嬉しがった。 「綺麗な緒都は僕の物だからね、誰にも触れさせないからね」 俺に感情なんか無くなってきて、大紀に挿れられ放出する自分の白濁の液が酷く汚く思えた。 「緒都は、はしたないな、こんなに興奮して」 嬉しそうに、勃起している俺のペニスを上下に扱く。 そんな事が起きているなんて微塵も知らない親たちは、引きこもる俺を腫れ物の様に扱った。 特に母親は、再婚相手の義父には肩身が狭そうで俺は忌々しい。 「大紀くん、申し訳ないわね」 あまりに不眠が続いた俺を、大紀が病院に連れて行くと言った。 夜でも昼でもボーッとしているから、セックスが面白くないんだろう。 親には大袈裟に話して、心療内科に連れて行かないと駄目だ、と必死に説明していた。 優秀な大紀の言う事に、親が疑問を持つことなんて無い。 それに、大学に進学した大紀は、自分の都合に合わせて俺を病院に連れて行けるから好都合だったんだろう、水曜日は授業が無いからと、ずっと水曜日に病院へ通っていた、ずっと大紀と一緒に。 睡眠導入剤を貰うだけでいいんだ、その辺の心療内科で良かったのに、大紀は大学病院にこだわった。 ネームバリューが大事、大紀の通っている大学だって誰でも知っている有名大学。 それでも、週に一度でも外に出られる様になった俺は少し変わった。 たまに買い物に出掛けたりも出来る様になる、大紀と一緒だけれど。 何処に行くにも大紀は一緒で、ほんの少し自分を取り戻してきた俺は、主治医から金曜日に診療を変えると言われた時、正直、喜んだ。 大紀と離れて、外出が出来ると。
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