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そんな話しを倫太朗さんに出来る筈はなくて、それでも、どうしてこの病院に通っているのか、そしてずっと引きこもりだった事は正直に話せたから充分だ。
それで距離を取られるなら、寧ろその方がいいと思った。
俺にも、人に興味を持つ感情が戻ってきたんだ、ただ喜ぼう。
「片付けだけでもいいよ、手伝ってくれないかな?」
それでも引かない倫太朗さんは、俺の腕を掴んだまま離さない。
「勿論、バイト代は出すよっ!」
ニコッと笑って、掴んでいない方の手で握手をする。
大紀以外の人に、こんなに触れられるなんて何年振りだろうと、ふと思った。
片付けだけなら、病院が混んでたって言えば大丈夫かな? 普段は夕方遅くにならないと大紀は帰ってこないんだ、この前はイレギュラーだった。
でも…
倫太朗さんを、もっと好きになってしまう…
… 駄目なのか?
倫太朗さんを好きになっちゃ駄目なのか?
この先俺は、ずっとこうして生きて行くのか? 大紀からの束縛と抑圧を受けて、ずっと生きて行くのか?
そんな疑問と反発が湧き上がった。
「バ、バイト代は… 要らない、です… 大丈夫、です… お手伝い、します… 」
倫太朗さんの傍にいられて、今より話ができるなら、バイト代なんて要らない。
「本当にっ!?」
倫太朗さんが、まだ俺の腕を掴んだまま立ち上がったから、二人してテーブルを挟んで立っている形になった。
「あ、バイト代を要らないって事に喜んでんじゃないからね、緒都くんが手伝ってくれるって事にだからね!」
嬉しそうに笑った顔が、途轍もなく俺も嬉しくて、頬がぽっと熱くなった。
「じゃあさ、早速、この荷物一緒に運んでくれる?」
台車を指して俺にウィンクをした。
駄目だ、ドキドキして息が苦しい… 落ち着かせようと、分からない様に深呼吸をしてみたけれど直ぐにバレた。
「あっ、大丈夫か? どこか具合悪いか?」
俺の体の具合が悪くなったと思った倫太朗さんが、焦って俺の背に手を当てたから、ますます呼吸が苦しくなる。
やめて… これ以上近付かれたら、死んでしまう… 。
「だ、大丈夫、です… 」
「本当に?」
「はい… 」
眉間の皺が深く悲しそうで、酷く心配気な顔が何だか可笑しくて、少し口元が緩むと、
「良かった!」
嬉しそうにまた笑った。
金曜日の罪が、また一つ増えた。
でも、俺には大きな一歩。
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