<3・フルートのセシルⅢ>

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 竜神様はとても美しい声を持つと言われている。彼は歌を歌いながら世界を構築し、森を作り海を作り人を作ったとされているのだ。この世界の人々が音楽をこよくなく愛するのは、そんな竜神様の血が影響しているのだろう、とも。  そんな竜神様を鎮めるために必要なのも音楽なのである。  魔法の力をこめた、指折りの音楽家たちが作る楽団、奏でる音楽。それによって、人間の価値を、素晴らしさを竜神様に示す。千年前は演奏を成功させたことにより怒りを鎮めることができ、世界を救うことができたと言われているのだ。 「救世楽団には特別な楽器が与えられる。魔力を通しやすく、より美しい音色を奏でられる特別な楽器……神の楽器。それを作ることを許された国家認定楽器職人こそこの俺、チャド・ベルってわけだ」  ふふん、と厚い胸を逸らしてみせるチャド。 「といっても、今の俺の仕事は……親父の仕事を半分引き継いだ形なんだけどな。本当は親父の代で、救世楽団のメンバーを集めきるはずで、俺はずっとその手伝いだったんだ。けど、親父が病気で倒れちまってよ。俺が今その仕事を受け継いで奔走してるっつーわけ」 「大変なんですね」 「まあな。神様の機嫌を損ねちゃいけねえから、最高の楽器を作らないといけねえし。当然奏者も、生半可な奴を選ぶわけにはいかねえ。救世楽団に選ばれた人間は、庶民であっても公爵と同等の地位が与えられることになる。名誉だし、すんげー額の援助金も出る。救世楽団のメンバーを出した家は一生安泰ともされる。だから、救世楽団に入りたいってやつが、俺の楽器店をわんさか訪れるんだけどよ。まあ……“自称スゴ腕の音楽家”ってやつが、本当にスゴ腕かはまったくの別問題だからなあ」  そして、救世楽団のメンバーは、神様に捧げる音楽のパートを全て埋める人数がいなければいけない。  生半可な腕の者を選ぶわけにいかないのに人数は必要。そりゃ、父の代で集めきれないのも仕方ないといえば仕方ないことなのかもしれない。 「曲の楽譜は、代々受け継いできたものを使うことになってる。まあ、メンバーの得意不得意とか、集まり状況によっては多少改変してもいいことになってるんだけどな。……そんなわけで、俺はあんたの腕が気に入ったし、できれば救世楽団に入ってほしいと思ってるんだが、どうだ?」  セシルには、是非楽団に入ってほしい。ただ、実はお目当ての音楽家を見つけてもその人間に入って貰えないというのはままあることではある。
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