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「思い知らされたわ。……確かに、わたくしの腕はまだまだね。苛立ち紛れに吹き鳴らして、人に迷惑をかけて……音楽を冒涜していたわ。もう一度、イチから修行し直さなければいけないわね。こんな気持ちで、腕前で、世界を救う楽団になんて入れるはずがなかったもの。思い上がっていた自分が本当に恥ずかしい」
「マガレイト夫人……」
「ふふ。素敵なものを聞かせてくれてありがとう。また来ますわ。今度は……他の曲も聴かせてくださいな。それでは」
「あ、おいちょっと!」
彼女はカウンターに黙ってお金を置いていくと、ぺこりと頭を下げて去っていってしまった。慌てて追いかけるものの、馬車が相手ではどうしようもない。チャドは恐る恐る、カウンターに乗ったきんちゃく袋を見た。どう見ても、金貨がぎっしり詰まっている。
そりゃ、良い楽器を作るためには、お金はいくらあっても足らないが。
「ど、どうすんだこれ……」
戸惑うチャドに、ひょっこりと奥から顔を出したマーヤが言った。
「チャドがいらないならあたいが貰うよ?丁度、食べたい高級ケーキがあってさあ!」
「はあ!?馬鹿野郎、なんでお前に無駄遣いさせないといけねーんだ!?」
「無駄遣いとはなんだよ、無駄遣いとは!そもそも今回死者が出ずに済んだのは、あたいが頑張ってモンスターを足止めしたらだろう!?あたいが功労者だと言っても過言ではないんだから、ちょーっとくらい報酬を貰ってもいいんじゃないかい!?」
「それとこれとは話が別だっつーの!」
そんなやり取りをしていたら、くすくすと笑う声が。見ればセシルが、肩を震わせて涙まで浮かべているではないか。
そんなに自分達は面白い会話をしていたか、と少しだけ恥ずかしくなる。
「チャドさん、マーヤさん」
彼は笑いの波が落ち着くと、改まってチャドに言ったのだった。
「私の音楽で、誰かが救えるなら。誰かを癒すために、私の音楽が本当に役立つのなら。……どうか、私を楽団に入れて頂けませんか。今度はチャドさんに担いで貰わなくてもいいように、もっと体も鍛えますから」
「お、おおお!」
彼の為の特別な楽器を作る、と約束はしたが。まだ楽団に入るところまでは確約していなかったチャドである。
マーヤと顔を見合わせ、思わずハイタッチをしていた。まずは一人、獲得。セシルを見つけてきたのはマーヤだし、やっぱり彼女にも少しばかりご褒美をあげるべきかもしれない――そんなことをちらっと思ったチャドなのだった。
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