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「どうです、チャドさん!わたくしのフルートの腕、見事なものでございましょう?救世楽団のメンバーとなるに相応しいとは思いませんこと?」
十年後。
四十歳になったチャドの目の前で、煌びやかなドレスを着た女はにやにやと笑いながらそう告げた。その手に握られているのは、無駄に意匠を凝らした金色の横笛。チャドは呆れるしかない。
――あのゴテゴテのフルート、作ったの誰だよ。あんな風に家紋なんか削ったら音がおかしくなるに決まってるだろうが。馬鹿にしてんのか?
音楽をこよくなく愛する竜神が作ったとされる世界。
特に音楽の都とも言われるこの国では、優れた音楽家は高い地位を得られることでも知られていた。歴代の王様はみんな優れた奏者か歌手であり、王様専用の立派な楽団も持っている。国の教養科目として音楽は取り入れられ、定期的に貴族たちが腕を競う演奏会が開かれるのが常だった。
だからこそ、楽器を演奏できる者は多く、貴族ともなれば“世界に一つだけのマイ楽器”を持っていることも少なくないのだが。
本当に楽器の価値を、美しい音色を奏でられる奏者などごくわずかなのである。今チャドの目の前にいる赤いドレスの男爵夫人も――はっきり言って、てんでダメダメのダメだった。
何よりまず、フルートに家紋を刻むところからどうかしている。この家で雇われている楽器職人は、まともな音色の良し悪しもわからぬドシロートであるらしい。それに加えて、この女の演奏もてんでなっちゃいない。なんなのか、あのトリルの吹き方は。
「……悪いが、帰ってくれ」
チャドの元を、腕自慢の奏者が訪れることは珍しくもなんともない。特に、我こそは救世主にならんとやってくうる貴族の者達は後を絶たなかった。わざわざこんな辺鄙な町の辺鄙な楽器職人の元へ、大層な馬車を駆って訪れるくらいだ。
勿論当然理由はある。国家認定楽器職人であるチャドに認められて、専用の“神の楽器”を作ってもらい、救世楽団に選ばれることにもなれば。どのような落ち目の貴族であろうと庶民であろうと関係なく、莫大な恩賞と栄誉を受けられるからだ。
神様に音楽を捧げ、世界を救う救世楽団。
当然、生半可な腕の人間を選ぶわけにはいかず、チャド自身が認めた人間以外に楽器を作ってやる気もないわけだったが。
「あんたの腕じゃ、俺のフルートに相応しくない。……どうしてもっていうなら、もう少し練習を重ねるんだな。あんたはセンスもないが、何より練習不足が目立つ」
「な、なんですって!?」
「もう一度だけ言う、帰ってくれ。あんたのために神の楽器を作る気は一切ない」
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