<6・クラリネットのダイアナⅠ>

4/4
前へ
/158ページ
次へ
「チャドは、楽器作りとなるとちっとも手が抜けないからねえ!」  庭に干した洗濯物を取り込んできたらしいマーヤが、パタパタと店に走ってきた。 「親父さんが存命だった時からよく叱られてたんだとさ!お前は楽器一つ一つにこだわり過ぎだ、丁寧にやりすぎだってさ!そういえば、この間来たクレイヴおじさんにも……」 「う、うるせえうるせえ!お前余計なことばっか言うんじゃねーよ!」  ちなみにクレイヴおじさん、というのは救世楽団のコントラバス担当の人物である。彼は父の代で見つかったメンバーの一人で、救世楽団の中でも古参にあたる人物だった。  元々軍人で、国王軍で演奏していたと聞いている。良い腕前だということで、王様から直々に紹介があったのだ。稀に、王様から人材を派遣してもらえることもあるのである。まあ残念ながら、王様から勧められた人材でも、救世楽団に入れるレベルとは限らないのが実情だったが。 「いやいや、あたいは真面目に言ってるんだよチャド。セシルが入ってくれたのはいいけどさ、あんたは新しいメンバーを探すって仕事もあるんだぜ?セシル一人に構っている場合じゃないだろう。次のスカウトもしないと」  奥のテーブルでタオルを畳みながら言うマーヤ。 「最近は、お貴族様方もあんまり店を訪れちゃくれないじゃないか。チャドの悪い噂でも広まってんじゃないだろうね?そろそろまた、あんた自身で人材を探しに行く時期だろ?」 「わかってるよ。つっても、あんまり店を空けるんわけにも……」  チャドがそこまで言いかけた時だった。からんからんからん、と入り口のベルが鳴る。なんだなんだ、と思って顔を上げたチャドは目を見開いた。見覚えのある顔がそこにあったからだ。 「ご機嫌よう、皆様方」  ぺこり、とお辞儀をしたのは、この田舎町に似つわかしくない羽つき帽子に赤いドレスの夫人。ふくよかな体の横には今日は、側にムッツリ顔の女の子を従えている。 「チャドさん、ちょっとお時間頂けるかしら?ご相談したいことがあるのだけれど」 「な、なんの御用だい?マガレイト夫人」 「うふふ」  先日“お世話”をしたマガレイト男爵夫人は。どこかいたずらっ子のような笑みで、自分たちを見回したのだった。
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加