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「ムッシュアローニ公爵が、より先進的な音楽を子供達に学んでもらうために始めた学校で、王都にある学園の中でも最も古い学校の一つだったはずです。初代理事長のジョン・ラ・ムッシュアローニ公爵はピッコロの名手であったことでも知られています。公爵が演奏した音源の一部がレコードで残っているのですが、かなりの値打ちものとなっているはずですよ。あの心浮き立つような音は、他の方には出し得ぬものですからね」
「よく知ってるな、セシル」
「木管楽器を嗜む者にとってはなかなか有名なお方なんです。もしも公爵が存命だったならば、まず間違い無く救世楽団のメンバーに入っていらっしゃったことでしょうね」
「ほう……」
こいつがここまで言うほどか、とチャドは感心する。そのレコードは一度聞いてみたいものだ。チャドの家にも数多くのレコードが保管されてはいるが、いかんせん新しいものが殆どである。昔の公爵様の高価な円盤など持っているはずもない。
「ムッシュアローニ公爵のレコードでしたら、国立図書館でも借りることができましてよ。興味がおありでしたら、一度是非聞いてみてくださいまし。本当に素晴しい演奏ですから」
セシルと同じくフルート奏者である夫人も、よく知る人物であったらしい。どこか浮かれるような口調で話してくれた。
「そんな公爵が作ってくださったルチアーナ学園中等部なのですが……最近、突如として学園内でずぶ濡れになる生徒が増えているらしいのですわ」
「ずぶ濡れに?そりゃまたなんで?」
「魔法で悪戯してくるやつがいるのよ!」
夫人に代わり、怒ったような声で続けたのはマリーだ。
「廊下を歩いている時、校庭でサッカーをしている時、テニスコートに出た時、図書室で本を借りる時、授業でノートにメモをしている時!タイミングなんておかまいなしよ。突然、頭の上からざばーっと水が降ってくるの。クラスの殆どの人がやられたんだから!」
「うわぉ」
そりゃまた、古典的な悪戯ですこと。チャドは思わずセシルと顔を見合わせる。
「魔法つっても、色々あんだろ。水をぶっかけるだけなら初級魔法で十分できることじゃねえか。それが、クラリネット云々とどう関係があるんだい?」
マリーのことが気に食わないのだろう。ムッスーと顰めっ面のまま言うマーヤ。
「ていうか、あんたもずぶ濡れにされたのかい?御愁傷様だねえ、そのお綺麗な髪の毛もみんなグッチャグチャになっちまったんだろうね。いい気味だよ!」
「マーヤ、ムカつくのはわかるが無闇と喧嘩売るのはやめろ」
「ふーんだ」
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