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チャドは髪をぐちゃぐちゃと掻き回してため息をついた。
何故、教師たちがダイアナとやらの悪戯を信じてくれないのか?それは単に、ダイアナの家が有名所だからというだけではないだろう。
確かに、音楽の力を使えば魔法を使うことも可能だ。それは、街をグレージャイアントが襲撃した時、セシルがフルートを奏でることで相手を穏便に森に返したことからも明白である。なんなら、チャドだって神の楽器を作るために魔法を使う。音楽と魔法は切っても切り離せない関係にあるのがこの世界と言っても過言ではない。
ただ。
クラリネットを少し吹くだけで、水の妖精を操り、しかも狙った相手をずぶ濡れにさせることができるとなると――とんでもない腕の持ち主であるのは間違いないだろう。むしろ、国の軍隊で雇いたいレベルの人材だ。そんな人間が、貴族の学校とはいえ中等部にいるなんて――教師たちからすれば俄には信じ難い話に違いない。
「クラリネットで精霊を操れるだけの力なある奴なら……救世楽団のメンバーに匹敵するかもしれないから調べてほしいってなわけか」
チャドの言葉に、そのとおりよ、と夫人は頷いた。
「娘やクラスメートに悪戯して回るような人間が救世楽団に……なんて腹立たしいことではありますけど。でも、この話が本当ならばとんでもない実力者であるのも間違いないはずよ。悔しいけれど、本当に悔しいけれど……世界を破滅から救うためには、背に腹は代えられない状況でもありますもの」
「ママぁ、やっぱりあたしは嫌だ!なんであいつが選ばれてあたしは駄目なわけ?あたしのが演奏上手いのに!」
「マリー、貴女は練習不足でしょ。家庭教師の先生にも叱られてたこと、ママは知っているのよ」
ぺし、と娘のお団子頭を軽くはたく夫人。
「ムカつくことではありますけど、もしあのような悪戯娘が救世楽団入りしたら……まあそれはそれで、曲がった根性も治るかもしれませんし?それはそれで、学園の平和のためには悪くないのではと思いまして。……そんなわけですからチャドさん、その子を審査してくださらない?救世楽団に相応しい人材であるのかどうかを」
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