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<8・クラリネットのダイアナⅢ>
確かに、クラリネットを吹くだけで精霊を操れるほどの実力者なら、救世楽団に迎え入れる価値もあるのかもしれない。
あわよくばそのまま更生して、娘に迷惑をかけないようになってくれたら嬉しいというのも夫人の本音なのだろう。性格的にだいぶ問題がありそうだが、今は藁にも縋るような心境だ。チャドとしても、確かめたいのはやまやまである。
問題は。
「そのダイアナって女の子と、どうやって話をするかだよなあ」
セシルの時は、町の郊外の家に直接会いにいけばよかった。しかし、これが王都のお屋敷に住んでいる子爵家のお嬢様ともなるとそうもいかない。
王様を通せば門前払いにされることはなくなるだろうが、それでも本人が自分に会ってくれるかどうかは別問題だ。ダイアナが正式に“救世楽団のメンバー入り”が決定すれば強制力もあろうが、現状はあくまで候補者というだけである。向こうが“会いたくない、楽団に入る気もない”と言って断ってくれば、こちらとしてもどうしようもないのだ。
せめてまず、彼女が本当に相応しい能力を持つ人間かどうかだけでも見極めたい。
演奏している現場を抑えることができるのが一番ではあるだろうが。
「夫人いわく、ダイアナって女の子はあんまり友達もいなくて、学校以外では屋敷の外にもそうそう出てこないらしい。セシルみたいに体が弱いのかもしれねえな」
そう。
彼女が頻繁に外を出歩くタイプならば、そこで捕まえることもできなくはなかったのだが。
「コンクールに拘りがあるってことは、自分の楽器の演奏や能力にも自信があるってことだろ?だったら、屋敷で練習していたりするんじゃないの?」
箪笥に衣類をしまいながらマーヤが言う。
「家で練習してるってならさ、家の外から立ち聞きできたりしないかね。無理?」
「そりゃ、ウチみたいなボロい店で練習してりゃ、外まで音は丸聞こえだろうがな。古くからある子爵家のお嬢様が、防音設備の整ってない場所で練習してると思うかよ?庭の柵の外から耳を澄ませて、クラリネットの音が聞こえるとは思えないね」
「あー、それもそっかあ。クラリネットじゃ、あたいのトロンボーンほどでかい音じゃないだろうしなあ」
「そうそう」
一般人の中にも、趣味で音楽をやっている人間が多い国である。特に貴族は一般教養として、殆どの人間が何かしらの楽器を嗜んでいることが殆どだ。当然、屋敷には練習ができる部屋や、身内を招いてのコンサートができるホールを備えていることが少なくない。当然、そのような場所で練習されたら、外で立ち聞きなんてできるハズもないのだ。
ならば、学校で彼女が演奏している様子を確認するしかないのだろうが、問題は。
「ルチアーナ学園は共学ですし、潜入捜査してみますか?」
チャドがちらりと思い浮かんだ案を、意外にもセシルから口にしてきた。
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