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「まあ、あんたほど耳が良くないあたいでさえ、今の演奏が残念ってことはわかっちまったからなあ。いやはや、困ったもんだね。最近ちっとも、奏者集めが進んでないじゃないか。あと数人ってところまで来てるのにさ」
「まったくだ」
チャドは椅子に座り、ぐったりと項垂れた。
父からこの仕事を引き継いで十年。父の代からあわせて、既に十数人も奏者が決定している。しかし、神様に捧げる歌を演奏するには、まだまだ埋まっていないパートがたくさんあるのだ。
なんとかして、残りの奏者を見つけなければいけない。時間はけして止まってはくれないのだから。かといって、生半可な腕の人間に神の楽器を作り、任せるなど論外なのである。
楽団が奏でる音楽は、全ての奏者の息があって初めて最高のハーモニーを奏でることができるのだ。
一人でも不純物が混じれば、あっという間に音色は壊れる。選択を間違えることなど、けして許されないのである。
「わかってるだろうけどチャド、時間はないよ」
マーヤが真剣な声で言った。
「新聞は、あんたも読んだはずだ。サズの町が、つい昨日大竜巻で壊滅した。竜神様は、人類に対して相当お冠だよ。この町だっていつ竜神様の標的になるかわかったもんじゃないんだ。その前に完成させなくちゃいけない。救世楽団と、神の音楽を」
「言われなくてもわかってる。……俺の背に、世界の命運がかかってるってことは」
「だったら、ここでぼけーっと店開けて待ってるだけじゃダメだろ。あんたの方からも探しに行ったらどうなんだ、楽団に入るに相応しい奏者ってやつを」
まったくもって正論である。この村で楽器店を開いてから数十年。父の代までは、優秀な奏者が自ら訪れてくれることも多かったし、その結果採用となった者も少なくなかった。
しかしもう最近は、自意識過剰な一部の貴族様がやってきて、ヘタクソに楽器を吹き鳴らすのが精々となっている。待ちに徹するのもそろそろ限界だろう。
「……わかっちゃいるが、アテがねえんだ。マーヤ、優秀な奏者候補はいねえのかい?」
困り果てて尋ねれば、マーヤは“そうだねえ”と天を仰いで言った。
「一人いなくはないんだけど、あいつはどうかなあ。……まあ、行ってみるだけ行ってみるかい?町外れに住んでる、“セシル”の家にさ」
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