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一つは土地の問題。当たり前だが不便な場所ほど土地が安い。彼らが特別裕福な一家でなかったのなら、丘の上の安い土地に家を建てるのも仕方ないと言えば仕方ないことだろう。町中には工場のあるエリアもあるし、空気が良いのも間違いあるまい。
そしてもう一つ。これは推測でしかないが、恐らく彼らを町の人々があまり歓迎してくれなかったことに起因している。
両親の顔は知らないが、息子のセシルの見た目はチャドの耳にも入っていたのだ。そう。
――竜神様とそっくりな息子とあれば……倦厭されるのも仕方ないと言えば仕方ないのかね。
今この世界に災いを振りまいている、竜神様。その姿は絵画や伝承で伝えられるところであるが、その中身は共通しているのだ。
つまり銀色の艶やかな鱗に、宝石のような青い目を持つのだと。
セシルという少年は、その見た目と一致しているのである。竜神様の僕ではないかと、迷信を信じたがる田舎町の人々に恐れられるのもわからないことではない。銀髪も青眼も、世界的にはけして珍しくない外見的特徴であるはずなのだが。
「お」
こいつは幸運だ。
荷物を持って丘を登っていたチャドは目を見開いた。丘の上の小さな一軒家。その庭ともいえる花畑のベンチに、一人の少年が座っているのが見えたからだ。
十五歳と聞いていたが、背はチャドほどではないにせよそこそこ高いらしい。ただし、長い銀髪の間から見える肌は日の光を知らない白さであり、首も肩もほっそりとしていて少女のようだった。そして、青い瞳はどこか遠くをぼんやりと見つめている。まるで絵画の世界から出て来たかのような美少年。――竜神様の僕では、なんて恐れられてしまうのもわからなくはない。人は時に、想像を絶するほどの美貌を怖いと思うイキモノなのだから。
そして、チャドは気づいていた。彼の膝の上に、黒い楽器ケースが置かれていること。大きさからしても噂からしても、フルートであるのはほぼ間違いあるまい。
「おーい、そこの銀髪のお坊ちゃんや!ちょっといいかい?」
「!」
チャドが声をかけると、びくりと肩を震わせて少年が振り返った。キョトンとしたその顔は、年相応に幼くもある。大人になったらさらに怖いくらいの美青年になるのは想像に難くない。
「あ、ああすまん!驚かせるつもりじゃなかったんだがな。俺ぁそこの町で楽器職人やってる、チャドってもんだ。弟子のマーヤがな、あんたがフルートの名手だって言うからよ。会いに来たのさ」
「マーヤさんの……お師匠様、ですか?」
「お、マーヤと話したことがあるかい?」
彼女の友人というのなら話は早い。チャドが声を弾ませると、まあ、と少年――セシルは照れたように目を伏せた。
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