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<3・フルートのセシルⅢ>
救世楽団について。
王様からお触れが出されているものの、詳細を知らないという人間は少なくない。案の定と言うべきか、セシルからもかなり戸惑った顔をされた。
「ものすごく名誉なことである、というのはなんとなく想像がつきますが」
「そうだな。……じゃあ、最初から説明するか」
ベンチは大人三人くらいなら座れそうな広さがあった。チャドはセシルの隣に座って、持ってきたスケッチブックを取り出す。これでも絵は得意な方だった。なんでスケッチブックを持ってきたのかといえば、ものを伝えるにしてもメモをするにしても最適だったからというのが大きい。
小さな手帳では、どうしても絵を描くのに不都合が生じる。相手によっては小さな文字や絵を見るのが苦手というケースもあるから尚更に。よって誰かを尋ねる時は必ず、色鉛筆とペン、そしてスケッチブックを持って歩くのがチャドの常なのだった。
「この世界ははるか昔、何もないところから竜神様が作ったと言われている。竜神様は嵐を起こし、川を作り、雲を散らして大地を太陽で照らす。天気、植物、動物、季節。ありとあらゆるものを支配し、作り上げることができるという存在だ」
スケッチブックに、簡単にドラゴンの絵を描いていくチャド。
竜神様の姿は銀色の体に青い目、細長く、背中に大きな翼があるとされている。そして、見るものをはっとさせるほどに美しいのだとも。
「その竜神様には伝説がある。人間が驕り高ぶり、罪を繰り返すようになった時……この世界に天罰を下すと。まさに今、この世界に起きていることというわけだ」
「天災が繰り返されている、ということですね」
「その通り。突然大きな地震が起きて、大地が割れ、町が飲み込まれてしまったり。死火山と呼ばれていた山が噴火して、マグマが人々の住む家や畑を覆いつくしてしまったり。あるいは津波、あるいは大雨、あるいは猛吹雪。場合によっては突如疫病が発生して、人々がバタバタと死んでいくとか。モンスターが襲来して町が壊滅してしまう、なんてこともあるようだな」
そのほとんどが、既にこの世界で現実に起きていること。そして千年ほど前にに竜神様が怒った時にも同じ天災に見舞われたとされている。
「竜神様の怒りを鎮めない限り、この世界は竜神様によって滅ぼされ、リセットされてしまうだろうとされている。それだけは避けなければいけない。ゆえに、竜神様を鎮める救世楽団が結成されるというわけだ」
この世界は音楽でできている――聖書の言葉だ。
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