作家への道

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編集者は、俺の原稿を読み終わるとこう言った。 「『3枚のおふだ』読ませてもらったよ。マジックアイテムが出てくるのがいい感じだね」 「マジックアイテム」 「それも、3枚しか使えないのがいいね。無限に魔法が使えるとチートっぽくなるからね」 「はぁ」 「ただ、題名が今ひとつだ。どうせなら横文字にしてしまおうか。こんなのどうだ。  『 The Three Cards 』」 「スリーカード」 「カードの使い方にも工夫が欲しかった。1枚目、便所の柱に貼って返事をさせるというのはおもしろい」 「はい」 「けど、2枚目と3枚目の使い方が似たような感じになっている。両方とも、ヤマンバの行く手を遮る障害物を出すだけで終わっている。ここで使用するおふだは、1枚だけでいい」 「はぁ」 「さらに言えば、ヤマンバを退治するのに、おふだは使われていない。時間稼ぎをしただけだ。読者はおふだの有効な使い方に期待をしているはず」 「そんなものですかね」 「ヤマンバを退治したのは和尚(おしょう)さんというのもちょっとなぁ……やっぱり、主人公の小僧がヤマンバを退治しないと」 「はぁ」 「小さい豆に化けられるか、と挑発して、豆になったヤマンバを和尚さんが餅で巻いて食べてしまう。そこで物語が終わっているけど、あと一ひねりいかないと」 「一ひねり」 「夜中に、和尚さんの腹を突き破って、ヤマンバが復活するんだよ」 「それ、かなり怖いです。和尚さん、死んでしまうんですか」 「そうだ。それで、弱虫だった小僧さんが一念発起して、ヤマンバと対決するんだ」 「はぁ」 「死闘の末、小僧さんは自分の力でヤマンバを倒す。しかし、足元には腹を破られた和尚さんの遺体が横たわっている」 「……」 「で、ここで使うんだよ、3枚目のおふだを」 「なるほど」 「おふだよおふだ、和尚さんを生き返らせてください、って。生き返った和尚さんに小僧さんは報告する。僕、自分の力でヤマンバに勝ったよ! って」 「そこまでしないと、作品は通らないのですね」 「いや、これはあくまで一案だけどね。ここまで直しても売れないんだよ。出版の世界は厳しいから」 「勉強になりました」 「あ、そうそう。もしこういう展開にするのなら、題名はスリーカードじゃなくて、サードカードの方がいいかもな」 「どういう意味ですか」 「3枚のおふだ、じゃなくて、3枚のおふだ、という意味だ」 「……もう、編集さんが自分で作品書けばいいじゃないですか」 「あははは……」 作家への道は厳しい。 まだまだ修行しなければならない。 今日も俺は、原稿を持って出版社めぐりを続けるのであった。 < 了 >
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