作家への道

2/10
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
編集者は、俺の原稿を読み終わるとこう言った。 「え~っと、題名は『桃太郎』だね。鬼退治というコンセプトは受けると思うよ。人外のお供を連れているのもいい。何より斬新なのは、桃から生まれたという設定だ」 「はい、ありがとうございます」 「けどね、伏線は回収しなくちゃ」 「伏線」 「どうして主人公は桃に入れられて川に流されたのか。その伏線が回収されないまま物語が終わってしまっているんだよ」 「はぁ」 「斬新な設定なだけに、実に惜しい」 「……そうですか」 「あと、鬼退治がすんなり終わっているのも物足りない。うちの社は少年誌も扱っているんでね、『友情』とか『努力』とか、あと、主人公の『成長』なんかも描いてほしい」 「友情」 「そう。例えば、犬・猿・キジ、最初は自己主張が強くて衝突ばかりする。そんな状態で鬼退治に行き、そして、一回はボロボロに負けて帰ってくる」 「一回、負けるんですか」 「その方がおもしろいだろ? で、チームワークの大切さをパーティーは学ぶんだ」 「パーティー」 「けど、それですんなり仲良しになったら、読者からご都合主義だと叩かれちゃうんでね。え~っと、お供は3匹いるんだっけ? じゃあ、キジあたり、喧嘩してパーティーから抜けてもらおうか」 「それで、どうするんですか?」 「桃太郎たちは、鬼に再び戦いを挑む。すると、鬼たちの間から現れるんだよ、キジが」 「鬼の方についたんですか」 「ああ、裏切りってのはインパクトあるだろ? で、桃太郎は、鬼よりもキジに対して憎しみを抱くんだよ」 「だんだん、話が変わってきてませんか?」 「桃太郎と鬼の戦いが始まったら、キジが鬼を攻撃し始める」 「え?」 「キジは、桃太郎を裏切ったと見せかけて、鬼たちに潜入していたんだ」 「なるほど」 「桃太郎側が勝利。桃太郎とキジは和解する。こんな感じの話じゃないと、うちでは採用できないな」 「はぁ、そうですか……ではまた、出直してきます」 俺はその出版社を出て、次の出版社へと向かった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!