3人が本棚に入れています
本棚に追加
2
邪魔にならない場所に突っ立って、二人でコーラを飲んだ。
パチパチと喉を流れていくコーラが、俺にほんの少しの勇気をくれた。
「あのさ」
「ん?」
「さっき、ぼーっとしてたじゃん」
「うん」
「あれ、その……」
「あー。たまには遠くを見ておかないとな、って」
「……は?」
「最近ちょっと、目がお疲れモードでさ」
少しだけ、ほんの少しだけ。心配して損したかもしれないと思った。
少しだけ、ほんの少しだけ。今度、コーラをおごり返してもらおうと思った。
タカシは最近、目の奥に痛みがあるのだという。
友だちとの連絡は常にスマホ、勉強する時にはタブレット。家に帰ればテレビを付けっぱなすし、パソコンをカタカタと弄るときもある。画面の見過ぎを気にして紙の本を手にしては、物語にのめり込んで数時間、細かい文字を追い続けることもあるらしい。
つまるところ、ずーっと何かを見ているのだ。
近くにある、何かを。
「オレさ、遠くを見るのを楽しむために、今度ピクニックに行こうと思うんだよ」
「はあ? 子どもじゃあるまいし」
「別に、ピクニックは子どもや家族だけのものじゃないだろ? 散歩しながら、店探してさ。美味そうなもん買って、どこかで食うの。一緒に行かね?」
「え、俺、巻き込まれるの?」
「ひとりより、ふたりのほうが楽しいじゃん? あ、じゃあ、サキも誘おうかなぁ?」
タカシの笑顔に、悪だくみの色が広がる。俺がサキに片想いしているのを知っていて茶化しているんだ。こっちは心配してやったっていうのに、お前ってヤツは。
コーラ返せ、倍にして返せ。
「ふざけんな。んなことしたらマナミ呼ぶぞ」
「誘えるもんなら誘ってみろやーい」
まったく。コイツのこういうところが好きで、だからコイツといつもつるんでいたいと思ってしまうんだ。
サキとマナミは友だちだ。だから、予定をふたりに合わせてやって、カフェの期間限定ドリンクをおごるから、と言ったら誘いに乗ってくれた。
チェックポイントをカフェにして、青い空の下、美味そうなものを探しながら、ひたすらに歩く。
こういう時、女に選択権を持たせた方が、上手くいく。まあ、人それぞれではあるのだろうけれど。
俺らは別にこだわりがなかったから、サキとマナミに食べたいと思うものを見つけてもらって、それを買って俺らが持った。
道中、「あー、オレ、どうしてもこの唐揚げ食いたい!」とタカシが言った。マナミが「わ、これ美味しそう! 私も食べたい!」と言うから、なんだかんだで4人分買った。
サキとマナミにカフェで甘ったるそうなドリンクを買ってやると、すぐさま目的地である近くの公園へ向かう。
飲み食いできる場所を探しながら、皆揃って、気づいた。
よくよく考えれば、レジャーシートとかそういう〝ピクニック感のあるアイテム〟を準備するのを忘れていたのだ。
どうやって食べようかと悩んでいると、タカシがぼーっと遠くを見だした。
おいおい、どうした? こんなタイミングで。
怪訝に見つめると、タカシはニカっと笑って、「あっちの方に屋根が見える。もしかしたら、ベンチとかあるかも」
最初のコメントを投稿しよう!