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 邪魔にならない場所に突っ立って、二人でコーラを飲んだ。  パチパチと喉を流れていくコーラが、俺にほんの少しの勇気をくれた。 「あのさ」 「ん?」 「さっき、ぼーっとしてたじゃん」 「うん」 「あれ、その……」 「あー。たまには遠くを見ておかないとな、って」 「……は?」 「最近ちょっと、目がお疲れモードでさ」  少しだけ、ほんの少しだけ。心配して損したかもしれないと思った。  少しだけ、ほんの少しだけ。今度、コーラをおごり返してもらおうと思った。    タカシは最近、目の奥に痛みがあるのだという。  友だちとの連絡は常にスマホ、勉強する時にはタブレット。家に帰ればテレビを付けっぱなすし、パソコンをカタカタと弄るときもある。画面の見過ぎを気にして紙の本を手にしては、物語にのめり込んで数時間、細かい文字を追い続けることもあるらしい。  つまるところ、ずーっと何かを見ているのだ。  近くにある、何かを。 「オレさ、遠くを見るのを楽しむために、今度ピクニックに行こうと思うんだよ」 「はあ? 子どもじゃあるまいし」 「別に、ピクニックは子どもや家族だけのものじゃないだろ? 散歩しながら、店探してさ。美味そうなもん買って、どこかで食うの。一緒に行かね?」 「え、俺、巻き込まれるの?」 「ひとりより、ふたりのほうが楽しいじゃん? あ、じゃあ、サキも誘おうかなぁ?」  タカシの笑顔に、悪だくみの色が広がる。俺がサキに片想いしているのを知っていて茶化しているんだ。こっちは心配してやったっていうのに、お前ってヤツは。  コーラ返せ、倍にして返せ。 「ふざけんな。んなことしたらマナミ呼ぶぞ」 「誘えるもんなら誘ってみろやーい」  まったく。コイツのこういうところが好きで、だからコイツといつもつるんでいたいと思ってしまうんだ。  サキとマナミは友だちだ。だから、予定をふたりに合わせてやって、カフェの期間限定ドリンクをおごるから、と言ったら誘いに乗ってくれた。  チェックポイントをカフェにして、青い空の下、美味そうなものを探しながら、ひたすらに歩く。  こういう時、女に選択権を持たせた方が、上手くいく。まあ、人それぞれではあるのだろうけれど。  俺らは別にこだわりがなかったから、サキとマナミに食べたいと思うものを見つけてもらって、それを買って俺らが持った。  道中、「あー、オレ、どうしてもこの唐揚げ食いたい!」とタカシが言った。マナミが「わ、これ美味しそう! 私も食べたい!」と言うから、なんだかんだで4人分買った。  サキとマナミにカフェで甘ったるそうなドリンクを買ってやると、すぐさま目的地である近くの公園へ向かう。  飲み食いできる場所を探しながら、皆揃って、気づいた。  よくよく考えれば、レジャーシートとかそういう〝ピクニック感のあるアイテム〟を準備するのを忘れていたのだ。  どうやって食べようかと悩んでいると、タカシがぼーっと遠くを見だした。  おいおい、どうした? こんなタイミングで。  怪訝に見つめると、タカシはニカっと笑って、「あっちの方に屋根が見える。もしかしたら、ベンチとかあるかも」
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