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4/終
「あたし、こっち」
「あ、オレも」
「じゃあね!」
「今日、楽しかった。ありがとう」
目が痛いふたりが、右に曲がった。目が痛くない二人で、真っ直ぐ進む。
俺は、ただ楽しくて、ただ美味しいだけで終わると思い込んでいたピクニックの最後の最後で、サキとふたりっきりになってしまった。
心臓が鳴る。キックドラムをダンダンと力任せに踏んで鳴らすように、破裂しそうな鼓動が鳴る。
「今日、本当に楽しかった」
「ああ、うん。楽しかったね」
「目が痛いコンビ、今はどんな話をしてるかな」
「どうだろうね」
「ねえ、リョウくんは、目が痛かったりしない?」
「え? 目は、痛くない」
「目は、って。どこか別なところが痛いの?」
「え、ああ。うん」
「どこ?」
ちらり、とサキの顔を見た。少し、頬が赤く見えた。
「し、心臓が、少し」
「ふふふ。じゃあ、わたしたちは、心臓痛いコンビだね」
クシャっと笑ったその顔が、きらっと輝いて見えた。
俺は、考えないと分からない人間だ。そして今、向き合って、ようやく、気づいた。
表情と心は今、一致している。
カフェのドリンクは、本当は、エサでも何でもなかった。
あの甘く、クリームたっぷりの飲み物は、ふたりを結ぶきっかけで。
恋は、身体が痛みだす前からきっと、同じ道を歩みだしていたんだ。
夕日が射しこむ。
小指を照らす。
ジーンとする両の目は、そこに赤い糸を見た。
〈了〉
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