道のしるべ

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 と、僕は困惑する。酒を飲むのは好きだが、女性は苦手だ。中高一貫の男子校から工学部に進学してしまった、典型的な理系男子だ。  どうしようか、出ようか。 ためらっていると、バーテンダーがこちらを向いて軽い微笑とともに会釈した。僕はすごすごと中に入ってしまった。バーテンダーの会釈って、どうしてこんなに圧があるんだろう。  女性は左から二番目の席に座っている。僕は、女性から二つ席を空けて腰を下ろした。ちらりと横を見る。黒くてつややかな髪を肩で切りそろえている。顔はよく見えないが、抜けるような白い肌とすっと伸びた首筋に、美人のオーラが出ている。 無理だ・・・・ そう思いながらもチラチラ見てしまう。赤いワンピースには僕の知らない細かい花模様が散っている。こんな大胆な色の服を着るなんて・・・ きっと美人だ。 やっぱり無理だ。 「何になさいますか」 バーテンダーがおしぼりとグラスに入ったナッツを出してくれた。   「ギ、ギムレットを」 「かしこまりました」 シェーカーを振る音が店内に響く。そう言えば、BGMはかけていないようだ。
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