道のしるべ

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女性は白く濁ったカクテルを飲んでいる。 「工事、終わったみたいですね」 突然話しかけてきたので、僕はグラスを落としそうになった。鈴を振るような声とはこのことだ。大粒の宝石みたいな瞳がチラリとこちらを見た。 美人、確定だ。 「あ、は、はい、おかげさまで」 「たいへんだったでしょう」 「ええ、そりゃもう」 難工事だった。トンネルを掘れば未確認の水脈から水があふれ出た。橋脚用の杭を打ちこめばずぶずぶと沈んでいく。山肌が突然崩れたり、クレーンに巨大な猪が引っかかったり。嫌がらせをされているとしか思えなかった。 そんな日々を思い出すと、自然と口も滑らかになった。 「本当に大変だったんです。ドローンを飛ばして状況を確認しようと思ったら鳥が体当たりして来るし、現場監督がマムシに噛まれるし。こんなこと起きる? てことばかりで」
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