道のしるべ

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「でしょうね」 女性はこちらをまっすぐに見て、にっこりと笑った。 美人だ。美人だけど・・・ この人、何を飲んでるんだ? 女性の手元には、ガラスのグラスではなく、素焼きの杯があった。そこからくいっと酒を煽る。 「やっぱりお酒は飲みなれたものじゃなきゃ落ち着かないわ。あなたもどうぞ」 促されて、僕は慌ててグラスを傾けた。どろりとしたのどごしだ。少し甘くて酸っぱい味わい。これはギムレットじゃないぞ。 手元を見ると、白く濁った液体が注がれていた。 「清酒なんて子供の飲み物ね。私はずっとこれを飲んできたのよ。酒はどぶろくに限るわ。」 鈴を振るような声がさらに高くなった。椅子に座っているのは赤い着物を着た女の子だった。十歳くらいの女の子が小首をかしげて僕のことを見ていた。 誰だ、この子。 途端にぐらりとめまいがした 「お客様、どうされました」 ぼくを覗き込んだバーテンダーの顔は、どう見ても八十歳を超えていようかと言う老人のものだった。 どういう・・・ことだ・・・ 僕の意識はだんだん遠のいていった。
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