道のしるべ

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「行くわよ」 そういうと、彼女はぼくの口の中に手を突っ込んだ。魂を体からつかみだしたのだ。僕と彼女は空に舞い上がった。高速道路を見下ろすと、そこには紅白のテープがかかっていた。 明日の開通式で偉い人たちが切る予定のテープだ。 「あのテープの先を見てごらんなさい」 彼女が指さす方向に目をやると、僕は思わず息をのんだ。 そこには異形の者たちがうごめいていた。絵本で見たことのある鬼の姿をしたもの、燃え盛る炎を載せた車を引く化け物、ハエのような飛ぶ虫が集合して人の形をしているもの・・・テープの向こう側には無数の化け物がいた。 「ここはね、あちらの世界とこちらの世界の境目がある場所なの。そこに道なんかつくってごらんなさい。あっという間にああいうのがやってくるのよ。いちばんヤバいのはあの虫の集まりみたいなやつ。疫病神。今、人間の世界には中途半端な致死率の病気が流行ってるみたいだけど、あいつが入ってきたらそんなもんじゃすまないわよ」 「そ、そんな・・・」 「今まではあたしが防いでいたの。あなたたちが踏み潰した (ほこら)。あたしはあの中に千年はいたわね」 千年。 どういうこと? 「あたしは千年前に、生け贄になったの。最近はすっかり忘れられてたけど、それでもちゃんと仕事をしてたのよ。それなのに踏み潰すなんて。 あそこをもう少していねいに掘っていたら、小さな頭蓋骨が出てきたはずよ」 首。生け贄・・ 「『首』に導く力があるものならば、逆もまた然り。呪いをかけられた首は、立ちふさがることができる。あたしはずっと立ちふさがっていたの。でも、あなたたちが壊しちゃった。明日、あのテープを切り落としたら、もう終わりよ。一気になだれこんでくるわ」 「ど、どうしたら・・・」 「あなたがにらみをきかせればいいの」 え・・・ ちょっと考えてから、ぼくは彼女が言っていることを理解した。
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