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廃線となった線路を辿っていくと森を抜けた。そのまま、まだ繋がる廃線の上にストヤノフは立っていた。
そこは、それまでいた街とは全く違った。
彼方のほうに、まるで幻の様に建物が見えるが、そこに行くまではなにもない。そこまで廃線を挟むように紅い花が植わり続けているだけだ。ただ、かつて建物があったのではないかというような、崩れた欠片や突起物が残っていた。
暗く、空気も淀んで感じる。そのせいか紅い花がかえって不気味な、おどろおどろしい色に思えた。
「この花の下には、遺体が埋まっている。数え切れぬ程のな」
ピンギーに背を向けたまま、ストヤノフは呟くように言った。
「紅い花は、その人達を偲ぶために植えたものだ」
その瞬間、強い風が吹き付け、紅い花が宙を舞った。
「ここがよく分かったな」
こちらを振り向いた彼だったが、深くかぶった帽子のせいで、表情までは読み取れない。
「私を探して欲しいと頼まれたか?」
「あぁ、みんなあんたを探してる」
ストヤノフは、そうですか、と言ったものの、また背を向けてしまった。
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