プロローグ

1/1
88人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

プロローグ

 俺、死んだのかもな。  両足で立ったのは久しぶりで、そう思った。  どこまでも真っ白い空間で、俺は足の裏に地面を感じている。  嬉しかった。自分の足で立つことはもう二度と叶わないと思っていたから。  ふと、視線に気づく。  見上げると、狐の面をつけた少年がいた。  白い着流しに、白い長髪を一つにまとめて宙に浮いている。死神のように思えた。 「――俺、死んだのか?」 「いいえ、まだですよ」  落ち着き払った静かな声色は、この状況を面白がっているように聴こえた。 「あなたは神々の遊びに巻き込まれました」 「遊び?」 「賭けですよ。あなたがどちらを選ぶか」  少年はふっ、と笑う。 「選択肢は2つ」  少年は人差し指を立てた。 「1つ、このままあなたの足を直す」 「えっ」 「どうせ夢かなにかだと思っているでしょう。  神の力で、全力で走れるまで回復させましょう」 「走れる……本当か」  足を見る。この不思議な世界でも、痛々しい傷跡は残っている。  もう長いこと走っていない。風を切って、自分の力でどこまでも速く駆け抜けたあの頃。戻れたらどんなにいいか。ずっと抱えていた胸の切ない痛みが、少年の言葉で希望へと転化(てんか)する。  だが沸き立つ俺をよそに、少年は冷静な声で続けた。 「選択肢はもう1つ」  さらに中指も立てる。 「足は直らない。走るどころか、このまま一生まともに歩けません。寿命も十年削ります。  その代わりに――」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!