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目覚め
夏の日差しが、踏切の向こう側に陽炎をゆらめかせる。田畑の間に家がぽつぽつ立ち並び、その先の山の上、青い空に入道雲が映える。
なのに、俺は汗ひとつかいていない。まるで現実味がない。気づけばここに立っていて、直前まで何をしていたか全然思い出せない。
そのくせ、目の前の光景にはどこか見覚えがある。
立ったまま頭をかいて、俺は思い出す。
「そっか、ここ……」
じいちゃん家の近くの踏切だ。廃屋の古いたばこの看板にも見覚えがある。
安心すると同時に、違和感を覚えた。
静かすぎる。
いくら田舎でも、ここは一応メインストリートだ。証拠に後ろを向くと、少し行った先、道の両脇にちっちゃい商店街が見える。祖父母の家に行くときはここを通る。いつ通っても、必ずばあさんたちがシャッターが降りた店の前や古びたベンチなんかで話し込んでいた。
人っ子ひとり、しかも車も通らないなんてことありえない。
「なんだこれ……」
知らない間に人類は滅亡したんだろうか。
「俺以外全部滅びればいいのに」なんて中二病くさい考えには覚えがある。なんせ青春真っただ中の高校生だ。でもどうしてここなんだろう。母方のじいちゃんちは、俺の家から車で二時間の距離だ。
夢なら、もっといい場所に行きたかったな。東京とか、無双できる異世界とか。
なんとなく、商店街から元の田園風景に目を戻す。
そしてぎょっとした。
「わっ」
目の前、ほんの数センチのところにそれはいた。
思わず後ずさる。
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