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狐の面の少年
「だ、誰…?」
呼びかけに応じる気配はない。その人もまた、風景と同じように静かだった。
俺と同じくらいの身長。白いシャツに短パン、運動靴。何より異様なのは、彼の顔だ。お祭りで売られているような狐の面を、彼はつけていた。白い狐の顔に、目元の赤い化粧。その奥に見える瞳は、何を考えているのかわからない。ただ俺のことを穴があくほど見てくる。
「……」
「……」
なんとか言ったらどうなんだろう、と思うが、彼はかたくなに黙っている。
気味が悪くて、俺は再び後ずさる。
だがそこで彼は、予想外の行動に出た。
こっちに向かって「来い」というように、手招きをしたのだ。気のせいか狐の面が笑ったように見えた。
俺は戸惑ったが、お構いなしに彼は走り出した。
一歩目の「たっ」という音が耳に残るくらい、静かな田舎の空気を切って。踏切を渡り、青い空、山の方角へと。
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