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部活
「待って」
数秒迷ったが、俺は彼を追いかけていた。
走り出す時に「どうせならTシャツとジーパンじゃなくてもっと走りやすい服装がよかったな」なんて思ったけど、あとの祭りだ。
田んぼの真ん中を、俺たちは淡々と走ってゆく。セミの声もしない。足音が響く。
前を行く狐面の少年は、なかなかいいフォームだった。陸上をやっている奴の走り方だな、と思って一つ、思い出す。
陸上部のルーティン。高校の周りを全員で軽く流すウォーミングアップ。前を行く仲間の背中、隣と距離を測り合いながら一丸となって、走る毎日。
時折軽口を叩いて、監督とマネージャーが見えると皆真面目な顔つきになって。部活の後にはへとへとになっているのに、俺も仲間も走るのが好きで、大会に向けてがんばって。
その光景を「懐かしい」と思った。
狐の面の少年は川を渡る。水面はきらきらと太陽の光を反射している。子供の頃、橋はもっと長く、川幅は広かった。
こんな夏の日中、ずっと走っていたら熱中症になりそうだが疲れは感じない。ただただ、足を出して、次の足を出して、数メートル先の彼を追う。
お面なんてつけていたら走りにくいだろうに、彼の短く刈った頭の位置はあまり変わることなく、それがまた陸上経験者だろうなと思わせた。
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