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たどり着く
なんでじいちゃんは、そんなになってまで俺をここまで連れてきたんだ。
一緒に走ったんだ。
わからないよ、しゃべってくれよ。
ああ、だけど。
俺が先にじいちゃんから遠ざかったんだった。
怪我したじいちゃんに会いに行かなくなった。
再会してようやくわかった。会えていた頃の時間の大切さを。会おうとしなかった自分が馬鹿だったこと。
だけど今さら遅い。じいちゃんは死んだ。
一緒にいるこの時間も、いつ終わるかわからない、けれど。
じいちゃんは……こんな俺でも会いたかったから、現れたのかも。そう思って、いいのかな。
思いがぐるぐる体の中をめぐって、泣く前のようにじんわりと目とのどに熱いものが込み上げてくる。
じいちゃんは、二階の一室の前で立ち止まって、扉を開けた。
中から声が聞こえた。
大きな声だけど、くぐもって聞こえる。聞き覚えのある声が、誰かを呼び止めるように。
じいちゃんが死んだあの日なんだろうか。
俺はふらふらと病室に向かう。
一歩踏み込んだ途端、空気が変わるのを感じた。
機械の音が聞こえる。人がいる空間のざわめき
がリアルで、刻々と流れる時の中にいるとわかった。
ここは、現実だ。
病室にいたのは、ベッドにしがみつく母親、その肩に手を置く父親、椅子に座って見守るばあちゃん、モニターを見る医者、看護師、そしてその中心に寝ているのは……じいちゃんじゃなかった。
「は?」
目を閉じて生気のない顔をした少年。
それは、俺だった。
「なぁ、これってどういう――」
振り向こうとする前に、ぽん、と背中を押された。不意をつかれ、俺はベッドの自分の上に倒れ込む。
「元気でな」
目の前が真っ白になる直前、その声を聞いた。
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