世界一嫌いな男、紬季綾人

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それでも幼かった俺は、あやちゃんに 「あらたくんは、あやがおとこのこだときらい?」 涙を浮かべて言われたら 「おれは、あやちゃんがおとこのこでもだいすきだよ」 なんて答えちゃったんだよね。 小学校1年生のあの事件の後、引越しするまでは確かに俺達は小さな恋人だった。 いつだって手を繋いで歩いて、俺の隣にはあやちゃんであやちゃんの隣は俺だった。 あの頃は俺の方が背が高かったし、あやちゃんは同じ歳のどの女子より美少女だった。 引越ししてから両親の事であやちゃんとの小さな恋の物語をすっかり忘れてしまった俺は、再会したあやちゃんがまさかの美少女からイケメンに変貌してしまうなんて予想外だった。 俺は身長があまり伸びず、今や165cmと男子としては小柄だし、顔は幼稚園の頃から変わらないもんだから童顔だ。 明らかに立場逆転に戸惑いつつも、あの頃と明らかに違う俺を良くこいつは一瞬で見破ったよな。 俺は親父似のこの女好きする顔を前髪で隠し、伊達メガネで顔をわざと隠している。 その状態なのに分かるなんて、さすが人生勝ち組(陽キャ)。 抱き締められたままそんな事を考えていると 「お互いに同じ高校合格したら、やっと一緒に過ごせるね」 そう言われて、背中に冷たい汗が流れた。 「え?」 「え?って、僕達は婚約者だろう?」 ニッコリ微笑えまれて言われてしまい、恐怖に身体が震えた。 「な……何言ってるの?」 怯えて戸惑う俺に、紬季は笑顔で 「あんなに結婚しようって、約束したじゃないか。キスだっ……ムグッ」 ヘラヘラといらん事を話し出すこいつの口を手で塞ぎ 「あれは、ガキの頃の話だろう? 時効だ、時効!」 そう叫んだ。 すると、紬季はわかり易くシオシオとしょんぼりし始めた。 俺が口から手を離すと 「じゃあ、もう新太君は僕を好きじゃないのか?」 低音の、女子が聞いたら狂喜しそうなイケメン声で呟いた。 「あのさ……」 そう呟いた時、そろそろ試験会場に入らなくちゃならない時間になっていた。 俺は深い溜息を吐くと 「とにかく、結婚の話は無効! 今日から俺達は赤の他人だから」 とだけ言い残し、俺は紬季に背を向けた。 「頑張るから!」 すると背後から、紬季がそう叫ぶと 「今の僕でも、又、新太君が好きになってくれるように頑張るから」 と叫んだのだ。 俺は心の中で (はぁ? お前があの頃の美少女にならない限りは無理だから) そう呟いて、紬季に背を向けたまま試験会場に向かった。 試験には無事合格し、俺は紬季の言葉をすっかり頭から削除していたらしい。 入学式で同じクラスに紬季の姿を見つけた時、卒倒しそうになった。 それからあいつは、数多ある女子からの熱い視線を跳ね除けて、俺のケツを追っかけ回して来た。 紬季は良い奴で、俺の苗字が変わっている事に対して聞いて来たりは決してしなかった。 俺の呼び方も、「新太君」から「杉原」に変えてくれいるくらいだ。
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