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返って来たモブ生活
翌朝、いつも通りに学校に行くと、いつもなら
「杉原、おはよう」
と、徹夜明けに外に出ると目に染みる太陽の如く眩しいキラッキラの笑顔を浮かべて現れる紬季綾人が来なかった。
その日から、紬季綾人は一切俺に絡まなくなったのだ。
(おぉ!返って来た平穏なモブ生活)
紬季綾人に絡まれなくなった俺は、女子達からも相手にされなくなって、まさにモブパラダイスを満喫していた。
クラスで俺を遠巻きに見ていたモブ仲間とも仲良くなり、紬季綾人率いる陽キャリア充チームと、俺達、モブチームは話をする事は無かった。
最初はあんなにうざく付き纏っていた紬季綾人が来なくなり嬉しかったんだけど……、段々と寂しいと思い始めた頃に夏休みに入った。
これはきっと気の迷いだと言い聞かせ、夏休み中はバイトに明け暮れた。
そして夏休みが始まって1週間が経過した頃、バイト先の女子に
「ねぇねぇ、杉原君。杉原君の友達で、超絶イケメンって居る?」
と聞かれたのだ。
「はぁ?」
一瞬、ポカンっとすると
「だよね、だよね!ごめんね、変な事を聞いて」
と言われた。
7月が終わり8月に入る頃には、本屋とコンビニのバイト先の女子に
「ねぇねぇ、やっぱり杉原君の友達でめちゃくちゃイケメン居るでしょう?あのさ……良かったら紹介してくれない?」
そう言われて、「紬季綾人だ!」と核心した。
どうやら紬季綾人は、俺の視界に入らないようにバイト先に来ては俺を見ているらしい。
アホなヤツだぜ。
俺の視界に入らなければ、見つからないとでも思っているのだろう。
俺は本棚の整理をしながら、女子の視線の先を追った。
女子というのは、本能的にイケメンを目で追う習性がある。
俺のバイト先の本屋は、そこそこ広いからバイトの人数も他の本屋さんより多い。
そして遂に、女子の視線が集まる場所を特定した。
「すみません、休憩入ります」
休憩時間になり、他の人にそう声を掛けて休憩室に一度入ってからダッシュで女子の視線が集まっていた場所近くに向かう。
すると、俺が休憩に入ったと思って油断したのだろう。
本を戻して立ち去る後ろ姿を発見した。
「紬季!」
声を掛けた瞬間、ビクリと身体を震わせてダッシュしやがった。
(こちとら、クソ親父のせいで逃げ足の速さだけは早いんだよ!)
そう思って追いかけた。
オーバーサイズの白いTシャツの背中を掴み
「捕まえた!」
と叫んだ。
しょんぼりとした顔の紬季の顔を見上げると
「ちょっと面貸せ」
そう呟いた俺に、紬季は観念した顔をして頷いた。
俺は本屋近くにあるサイゼルヤに行くと、お店一番人気の安くて美味くてカロリーが高いと評判のミラノ風ドリアとドリンクバーを頼んだ。
「紬季は?」
と聞くと、紬季はしょんぼりした顔のまま
「同じので」
と言うので、それを紙に書いて店員に手渡した。
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