97人が本棚に入れています
本棚に追加
今、目の前にいる紬季は、俺と同じ黒縁の伊達メガネを掛けて前髪で顔を隠してはいるが……、そもそものイケメンオーラが全然隠れていない。
真っ白なオーバーサイズのTシャツにジーンズという出立ちなのに、そのスタイルの良さと地毛の薄茶色の柔らかそうな髪の毛が「イケメンです!」と訴えている。
「で、お前は何をしているんだ?」
そう呟いた俺に、きっと見つかった時の言い訳として考えていたのであろう。
「参考書を買いに来たんだ。そうしたら偶然、杉原が居たからびっくりしたよ」
と、明らかに挙動不審な態度で言っている。
俺はとりあえずドリンクバーで飲み物を数点持って来ると、それを飲みながら目の前ででっかいゴールデンレトリバーがイタズラがバレて怒られているかのような顔で座って紬季を見た。
(俺には、垂れた耳としょんぼりした尻尾が見える)
「参考書ねぇ……。お前が返した本のゾーンは、経済学の本しか無い場所だったけど?」
そう訊ねると、目を泳がせながら
「え?け、経済学?」
と答えた。
俺はそんな紬季が可愛くて、思わず吹き出して笑ってしまった。
そんな俺に驚いたのか、紬季は目をパシパシと瞬かせて俺を見ている。
俺はひとしきり笑った後
「お前、嘘つくの本当に下手な」
そう呟いた後
「ごめんな」
と、紬季の顔を真っ直ぐに見つめて伝えた。
俺の言葉に驚いた顔をする紬季に
「酷いこと言ったって……後悔していたんだ」
ポツリと呟くと、紬季が悲しそうな笑顔を浮かべると首を横に振り
「無理しなくて良いよ。本音が漏れちゃったんだろう?」
そう呟く憂い顔さえも、イケメン過ぎてムカつく。
「まぁ……そうだけど、実際に離れられたら……その反面寂しかったと言うか……」
ポツリと呟いた言葉に、紬季の頭に見えていたレトリバーの垂れた耳が、突然ピンっと立ち上がったように見えた。
「え?」
シオシオと落ち込んでいた顔が、少し明るくなる。
「俺さ、引越した前後に色々あったんだ」
ポツリと呟いた俺の言葉に、ピンっと張っていた耳がしおしおと垂れて行き、悲しそうな表情になる紬季に笑いを堪えながら
「お前がそんな顔をするなよ。だからさ、俺は目立たないように生きたいんだ。でも、お前は存在だけで目立つからさ……」
そう呟いた俺を、紬季綾人の茶色の瞳が優しく見つめる。
「だからさ、勝手なヤツと思うかもしれないけど、学校で絡まないでくれるなら……別に……」
と俯いて呟いた瞬間、突然、目の前が眩しくなった。
何だ?と顔を上げたら、さっきまでしおしおしていた紬季が復活していた。
そのお陰でこいつのオーラ?みたいなやつが、蛍光灯からLEDライトに変わったかのように明るくなり、垂れていた耳がピンッと張って尻尾がブンブンと元気に振られているのが……見える。
「じゃあ、世界一嫌いなんじゃないんだね?」
目が潰れるんじゃないかって程に眩しい笑顔を浮かべた紬季に頷き
「その言葉に関しては……本当にごめん」
と頭を下げた。
すると紬季は両手をギュッと握り締めたので
(殴られるのか?)
と思っていると
「嬉しくて、抱き締めたい気持ちを抑えるのが大変だよ!」
そう言ってにっこり微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!