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コイツの感覚がいまいち分からくて首を傾げた時に、ミラノ風ドリアが届いた。
取り敢えず仲直りしたし、もう解決だな!とミラノ風ドリアを頬張っていると、目の前のイケメンがうっとりした顔で俺を見ていやがる。
めちゃくちゃ食い辛くて
「おい!お前も見てないで食えよ」
と言うと
「新太君とご飯食べてるなんて、嬉しくて胸がいっぱいだよ」
なんて言いやがった。
女子共なら、ハートマークいっぱい飛ばして「キャー」とか言うんだろうけど……。
口の中に甘ったるい生クリームを押し込まれた気分になりながら、俺は黙々とミラノ風ドリアを食べていた。
すると紬季はポケットからスマホを取り出し
「あのさ……、連絡先を交換しない?」
と言い出した。
俺は紬季のスマホを一瞬眺めてから、ミラノ風ドリアの最後の一口を口に運ぶと
「持って無い」
と答えた。
「え?」
「うちは母ちゃんの稼ぎと爺ちゃんと婆ちゃんの年金で暮らしてんだぞ。そんな贅沢品、持てるかよ」
そう答えると、紬季は少し考えてからスマホで何かを打ち込むと、スーツ姿の男性が突然現れて、手には紬季とお揃いのスマホを持っていた。
「ありがとう」
紬季は笑顔で受け取ると、そのスマホを俺に差し出した。
「なんだよ、これ」
目を据わらせて呟くと
「これ、貸すよ」
と言い出したのだ。
「お前、うちが貧しいからって馬鹿にしてんのか?」
と呟くと、紬季は慌てて
「違うよ! だって、学校じゃ話しかけちゃダメなんでしょう? だったら、せめて僕と連絡は取れるようにして欲しいんだ。だから、僕とバイト先に連絡する専用で使って欲しいんだ」
そう答えた。
「はぁ? 意味がわからねぇ」
と呟いた俺に
「違うって!じゃあ、僕はいつ新太君と話せるんだよ。学校はダメ。人が居る所はダメ。じゃあ、今迄と何が変わるんだよ」
そう言われて、確かにそうだな……と納得した。
すると紬季は畳み掛けるように
「気になるって言うなら、僕との連絡専門で使ってくれれば良いから。どのみち、新太君が使わなくても、僕が持っているだけだし。それに発信しなければお金は掛からないし」
と言うと、再びピンっと張った耳が垂れて悲しそうな顔で俺を見ていやがる。
今にも『くぅ〜ん』と鳴き出しそうなその顔に絆されてしまい、大きな溜息を吐いて
「分かった。お前と以外は使わないなら、連絡手段として預かっておくよ」
と答えると、垂れた耳がピンっと立ち上がって
「良かった」
そう言って微笑んだ。
その微笑んだ顔は、幼い頃に大好きだった「あやちゃん」の笑顔だった。
俺が小さく微笑むと
「あのね、パスワードは新太君の誕生日に設定してあるからね。それから、LIMEには僕の連絡先しか入っていないからね」
怒涛の勢いで説明すると安心したらしく、すっかり冷め切ったミラノ風ドリアを食べ始めた。
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