第1話 死んでるけど余生

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第1話 死んでるけど余生

 二人の若い男が自撮り棒にセットしたスマートホンへ話かけていた。 「どうも〜皆さん! 心霊スポット突撃系動画配信者のライトです!」 「同じく配信者のレフトです!」 「今日はここ、最恐と言われる心霊スポットに来ています」 「ネットで検索した情報だと、何でも戦国時代に落ち武者達に略奪されて村人が全員、虐殺されたとか」 「怖いね〜。僕たちこれから、この最恐のスポットに突撃しちゃいま〜す!」 「ヘアーウィーゴー!」 「暗い森とか雰囲気でてるね〜レフト」 「マジ、ヤバくない? ライト」 「レフト、あれ見える? 僕の指差してるところ」 「何?」 「なんだか村みたいのが見えてきたよ」 「本当にあったんだ……」  ――――静かにして―――― 「何? レフト」 「いや、今のはライトが言ったでしょ?」 「僕は何も……」  ――――うるさい――――  2人の配信者の前に人の形をした霊魂が現れ、赤く光る目で生者を睨んだ。 「「ああああぁぁぁぁ☓△□%〆○*#ぁぁああ!!!?」」  配信者達は転げ回りながら背を見せて逃げた。  だから、うるさいって言ったじゃない?  夜なんだから静かにしてよ!  私は半年前に死んだばかりの(じょ)幽霊。  いじめ、パワハラ、セクハラ、借金で社会に居場所を無くして誰も知らないところで死にたいと思って、たまたまたどり着いたこの場所(むら)で自殺したのがきっかけで、多分、地縛霊になっちゃった。  私が居座るこの廃墟村は戦国時代に(いくさ)に敗れて落ち武者が略奪で襲った村で、昔のチャンバラ時代劇並に村の人達がバッサバッサと切り殺されていったらしい。  生き残った人達は落ち武者の追い打ちが怖くて身を潜め、長いこと村の悲劇は語られなかった。    時代が進み幕府の転覆、世界大戦の集結、国内での混乱が終わり平成に入って社会が落ち着きを見せると、ようやく村の存在が明るみになり研究者が文献を漁って、村の悲劇がネットで知られるようになったとか。  そんな悲劇があった村だから曰く付き。  肝試しでやってくる生者は絶えない。  やれ肝試しだの、やれ心霊スポット配信者だの。  本当にうるさい。  とかく迷惑。  もう社会のけたましい世界は嫌なの。  私が見つけた安らぎの郷を壊さないで!  死んだ後でも人間との関係に悩まされるなんて……。  こんな鬱蒼とした村が怖くないかって?    私、幽霊だから怖くない!  なんだろう、私一人しかいないけど寂しくないんだよね。  静かで落ち着く。   やっと居場所を見つけたような気がした。  せっかく平穏に第二の人生を生きてるのに…………というより死んじゃってるから、生きてるような気がしてる。  むしろ余生?  でも死んで寿命がないからほぼ永遠にこの時間が続くわけだから、やっぱり生きてる風なんだよね。  自分で見つけたセカンドライフ。  あれだけ脅かせば、しばらくは誰も寄り付かないわね。  と、思っていたけど生者の愚行を甘く見ていた…………。
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