お盆

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お盆

「うっさいなぁ!」  セミが大合唱するこの季節。どうせなら上手くハモれば良いものを、ダミ声で唸っていれば文句にしか聞こえない。  きっと日本語訳にすれば『うるせぇババア』『腹減った!』『飯はまだかーー』とか何とか言ってんだろうと、アサコは窓からセミに向かって〝黙れ〟と叫ぶ。  お盆を待っているのは他でもない。ご先祖さまは皆、実家への切符が届くのを待っている。R35での一時帰宅は血縁関係ならば何体呼んでも構わないという規定があり、人数は各家庭のお財布事情により決定される。  ならば優先的に呼んでもらえるよう営業にまわるしかないーーと考えたご先祖さまは、毎晩誰かの枕元で『呼んでくれ〜呼んでくれ〜』と訴える。  今年のお盆は久々に賑やかになるぞと、密かに楽しみにしている人がここにもいた。 「あなた〜。レンタルの予約、間に合って良かったわね。キャンセル待ちして何とか三つ」 「そうだな。親父だろ? お袋だろ? アサコのお袋さんとな」 「あとひとつ借りられたらねー。私のお父さんも呼べたんだけど。ま、秋のお彼岸に来てもらえばいいわ」
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