お盆

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 今夜は天ぷらと煮しめを作り、素麺を茹でた。借りてきたマネキンの首の前に小皿を銘々に置き、お食事を共にする。お盆は少し奮発して十五分の会食の予定だ。 「お父さん。マネキンの操作方法わかる?」 「あぁ。説明書にはスタートを押すだけと書いてある」 「マサシはまだ帰ってこないのかしら」 「もう帰ってくるだろ……。お、噂をすれば」  あの世もこの世もスタンバイ。お盆の食事の準備は整った。お盆というのはそもそも、亡くなられた方やご先祖様が、あの世と呼ばれる世界からこの世に戻ってくる期間のこと。故人が生前過ごした場所、主に自宅でお迎えし、再び戻っていくあの世での幸せ(=冥福)を祈る機会となっている。ご先祖様を迎えいれる手段として、我が国では古くから迎え火送り火の儀式が伝承されている。  しかし時代とともに風習・慣わしにも少しずつ変化がみられる近年、ご先祖様を仲介なしに自宅に招き入れるなんてことは、誰も想像し得なかったことだろう。アサコはふとマネキンをみると、三体のマネキンと目が合ったような気がして、思わず微笑みを返した。  
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