月日は経つもの

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「そうそう。去年の夏、アサコさんR35やったって言ってたじゃない?」 「はい。両親呼んで」 「私ね、一昨日やってみたの」 「え? 前に言ってた……?」 「そう。父とね、話してみようと思って」  目の前の空気が少し波打つ。 「終わったことだし、忘れるつもりでいたの。遺産はどうでもいいけど、ただ結果的に父があの(ひと)に多く遺したということは、私たち家族より大事だったんだなっていうショックが大きくてね。  時間とともにそんな気持ちも薄らいでいくと思ってたのに、一本の線が消えずに残るのよ。厄介なものね、人の気持ちって」  そういって梶村は俯いた。  アサコは畳んだエプロンをロッカーにしまえずに、梶村の気持ちに寄り添う。 「それで。話そうと思ったんですね?」 「でもあっけらかんとしてたわ。お前たちは自分の足で歩けるだろって。あの(ひと)は俺に寄り添って身の回りの世話をしてくれたし、年金暮らしの身だ。だから遺してやらないと生きていけないんだってね。  おまけに何で呼んだんだとまで言われたわ。 父にとって娘はもう、どうでもいいみたいね」
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